コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

絵を描くのが上手くなる方法、その98

私の教室に通う人たちの油絵や水彩画を毎日のように見ていると、時折ドキッとするくらい素晴らしい作品に接することがある。それらがどのような制作プロセスから生まれてくるのか私はとても興味を持っていて、日頃からいろいろと考えを巡らせてきたけれども…

絵を描くのが上手くなる方法、その97

前回はユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドンの静物画を掲載した。ヴァラドンは、正規の美術教育を受けていない独学の画家である。そして裸婦をモチーフにした作品をいくつも描いていて、前衛的だなと思ってしまう。当時のフランスでは、女性がヌードモデルを…

絵を描くのが上手くなる方法、その96

私は毎日のように生徒の作品に接しているけれども、時折、出来ましたと言われて絵を見てドキッとさせられることがある。そのくらい素晴らしいわけで、作者の日頃の作品を見知っている私にとって予想外だと尚更に驚くから二重にドキッとする。「予想外」とは…

絵を描くのが上手くなる方法、その95

私が日頃接している生徒の作品の中に、時折ドキッとさせられるいい絵があると前回に書いた。そこで今回は生徒が制作している様子をできるだけ思い出しながら、どのような条件が満たされるときに、どのような理由でドキッとするいい絵が生まれるのかを考えて…

絵を描くのが上手くなる方法、その94

前回の最後に、「ルソーのようなタイプの画家からは学べる点が多いだろう」と書いたけれども、その説明から始めよう。ルソーのようなタイプの画家という意味は、独自性の高い画風の持ち主で、なおかつ、アカデミックな絵画技術に依存しないで作品をつくって…

絵を描くのが上手くなる方法、その93

アンリ・ルソーの描く人物は変である。人物画、とくに肖像画においてはルソーは独自のデフォルメを意図しているようだ、と考えるのは多分間違っている。ルソーの画集(タッシェン出版)の解説には、彼がどのように肖像画を制作したのかについて述べられてい…

絵を描くのが上手くなる方法、その92

前回の続きで、アンリ・ルソーについてもう少し考えてみたい。好き嫌いは別にして、趣味で絵を描いている人にとってルソーの作品は多くのヒントを与えてくれると思う。 ルソーの作品中、花をモチーフにしたものは12点知られているらしい、上の作品を見てみ…

絵を描くのが上手くなる方法、その91

この連載は、私の教室の人達のように趣味で絵を描いている人に向けて、上達するためのヒントにしてもらいたいと考えて続けている。ところで、このところ書いている話が少々まとまりに欠け分かりにくいと気付いたので、あらためて話のテーマをはっきりさせて…

絵を描くのが上手くなる方法、その90

木村泰司著「名画はおしゃべり」は、一般の美術好きにとって美術史の貴重な知識が得られる大変面白い一冊である。この本の書き出しは、「現代では洋の東西を問わず、アーティスト(芸術家)という存在が氾濫しています」と始められている。そして、「芸術的…

絵を描くのが上手くなる方法、その89

前回の話の続き。「趣味で絵を描いている人は、早い段階で自由に描くようになる場合が多い」と書くと、そんなことはない、ずっと先生の指導に従って描いているという意見があるだろう。これについて少々しつこく説明したい。 まず、プロを目指している画学生…

絵を描くのが上手くなる方法、その88

前回はイギリスの元首相ウインストン・チャーチルの作品を取り上げたけれども、チャーチルのように趣味で長く描き続けると、場合によってはプロの画家よりも優れた作品を残せる。趣味でコツコツ描き続けることには大きな利点があるからだ。それは、初心者の…

絵を描くのが上手くなる方法、その87

上に掲載したのは、イギリスの首相だったウインストン・チャーチルの作品。チャーチルの趣味は、風景の油絵を描くことだった。この作品の題名は「クトゥービーヤ・モスクの塔」で、モロッコのマラケシュの風景という。1943年に描き始め完成後に当時のア…

絵を描くのが上手くなる方法、その86

趣味で絵を描いている人は、どのような期待や願望を持ちつつ描いているのかという話の続き。今回は「絵を描いて自己表現したい」と望んでいる人へ、考えるヒントのようなことを書いてみたい。そもそもが、絵を描く行為は自己表現に他ならないと多くの人が了…

絵を描くのが上手くなる方法、その85

一口に趣味で絵を描いているといっても絵との関わり方は様々で、「レクリエーションの一つに過ぎない」から「唯一の生きがい」と思っている人まで違いは大きい。私の経験から推測するなら、気晴らし以上の、できれば生きがいになって欲しいと考えている人は…

絵を描くのが上手くなる方法、その84

「趣味で絵を描いている人は、いろんな期待や願望を持って描いている」という話の続き。今回は、「できれば生きがいにしたい」と願っている人と「知的な遊びとして楽しみたい」と考えている人に向けて、参考となりそうなアドバイスを書いてみたい。 生きがい…

絵を描くのが上手くなる方法、その83

前回の話が途中だったので続きを書こう。岸田劉生のアドバイスの「黙ってただ描け。画家はそれ一筋がよい」は、画家の心意気を示したものと思われるが、「四の五の言わずに一心に描き続ければおのずと道は開ける」みたいな精神論で私は好まない。趣味で絵を…

絵を描くのが上手くなる方法、その82

趣味で絵を描いている人は、どのような期待や願望があって描いているのだろうか。前回同様、この話題を続けてみよう。「絵がとにかく上手くなりたい」とか「コンクールに出品したい、個展を開きたい」等のはっきりした目標があり、情熱をもって制作に取り組…

絵を描くのが上手くなる方法、その81

趣味で絵を描いている人は、人それぞれの期待や願望があって描いているという話の続き。「美術(絵画)への理解を深めたい」とか「一般的な教養として身につけたい」と考えて絵を描いている人は、まず写実的に描く練習をするとよい。西洋絵画の基本は写実で…

絵を描くのが上手くなる方法、その80

前回の続き。旅行先で気に入った景色を気軽にスケッチできたら楽しいだろうなあと思ったので、それでは絵画教室で習ってみようということなら、まずは写実の練習をすることからで、鉛筆デッサンを始めるのが理に適っている。なぜなら、だいたいの遠近感の表…

絵を描くのが上手くなる方法、その79

前回最後に、「写実から離れた絵を描いていくことについて述べてみたい」と書いたのだが、このテーマは周辺からグダグダと話していかないとうまくいきそうにないので、そうすることにしよう。さて、「あまり写実的に描かなくてもいい絵になるし、そういう絵…

絵を描くのが上手くなる方法、その78

前回の最後に、「人物画や風景画をメインに描いているけれども優れた静物画も残している画家」と書いたが、そういう画家の筆頭に挙げたいのがエドゥアール・マネ(1832-1883年)だ。マネは歴史画や人物をモチーフとした作品が多いが、静物画の傑作…

絵を描くのが上手くなる方法、その77

私の教室では、ほとんどの人が静物画を描いている。花や果物や器物等をモチーフとした静物画は、絵画の基本を学習するには最適だと私は考えている。静物画が上達するためには、構図や立体感や材質感や空間を上手く表現するにはどうしたらよいかを学ぶ必要が…

絵を描くのが上手くなる方法、その76

趣味で絵を描いている人が速く上達するには、自分の好きな画家を見つけて、その画家の作品を参考にしたり手本にしたりすると大変プラスになる。私は教室の生徒に、そのようにアドバイスすることが度々ある。今回も風景画のジャンルで好きな画家を探すときに…

絵を描くのが上手くなる方法、その75

前回に続いて好きな画家を見つけるをテーマにして書いていこう。好きな画家の作品は自分の絵の道での手本になるし、折にふれて勇気を与えてくれもする。今回も好きな風景画家を見つける端緒となるような画家を紹介してみよう。 さて、前回までは写実で風景画…

絵を描くのが上手くなる方法、その74

前回は何人かの風景画家を採り上げた。今回も続けて参考になりそうな風景画家を挙げてみよう。その前に、魅力のある水彩画で知られていた安野光雅が出演している番組を紹介したい。 https://www.youtube.com/watch?v=4MsCaNQau4I このビデオで面白いのは、安…

絵を描くのが上手くなる方法、その73

今回も前回に続き、好きな画家を見つける際に手がかりを与えてくれそうな画家を挙げてみる。手がかりになるというのは、つまり、彼らに興味を持ったなら、その画家の仲間、グループの画家を当たってみると好きな画家が見つかるかも知れない。今回は、風景画…

絵を描くのが上手くなる方法、その72

前回は、印象派の画法で人物画の秀作を数多く残している画家、メアリー・カサットを紹介した。写実を基本にした人物画を描きたいと考えている人に、他にも参考になりそうな画家を挙げてみよう。展覧会で作品を目にする機会が多くて、その時代を代表するよく…

絵を描くのが上手くなる方法、その71

好きな画家を見つける話の続き。上に掲載したのは、アメリカの画家、メアリー・カサット(1844-1926年)の作品。前回紹介したラースローに比べるとカサットの作品は、色彩が明るく描き方も精密な描写ではないので親しみやすい絵だと思う。カサット…

絵を描くのが上手くなる方法、その70

前回の続き。写実的な絵で、どのようなスタイルの絵を描いていこうか考えるとき、自分の好きな画家が見つかると大変参考になる。好きな画家の作品を通して進むべき絵の方向が見えてくるからだ。写実に基本をおいて描くにしても、写実的な絵のスタイルはいろ…

絵を描くのが上手くなる方法、その69

上に掲載したのは、ジョン・シンガー・サージェントの水彩画。前回掲載した彼の人物画と同様、やたらに上手い。まず前景の船と後景の建築物との大胆な構図に驚いてしまう。小心者の私にはとてもこんな構図はとれない。水彩画は思い切りが大事で、迷いながら…