コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その134

 

印象派のような絵を描く話を続けている。印象派の絵が特に好きで、そのような絵を描きたいと思うなら、油絵や水彩画を習い始めた初歩の人でも印象派風に描く練習をすればよいと思う。先に「ふつうの絵」を描く練習をしてからと考えて、二の足を踏むことはない。練習する場合には、印象派といえば色彩がすぐに連想されるくらいだからやはり色使いに気を付けたいけれども、それよりも関心を向けるべきは「第一印象ではどのように見えるのか」である。この問題に拘って描くと有意義な練習になると思う。具体的に説明してみよう。

まずは上に掲載した絵とは関係のない話から。花びんにオレンジ色のバラの花束が生けてある。それを目にした瞬間、どのように見えてくるだろうか。まず圧倒的に見えてくるのはオレンジ色の花で、緑色の葉はほとんど目に入らないだろう。もちろん、すぐに葉の色や形も意識されるだろうが、花とまったく同時に同程度に見えてくるのではない。どのようなものであれ何かを見たときには、ほんの短い間の出来事だが、このような時間差を伴っていろんなものが見えてくるわけだ。

さて、第一印象ではオレンジ色のバラの花が圧倒的に視線を引き付けるという現象が生じるのだが、このイメージを表現したいと思うならバラの花は相応に強い存在感を与える必要がある。それには花の形や色が大事なわけで、第一印象では花の大きさは実際よりも大きく見えるだろうし、オレンジ色は実物よりも鮮やかな感じを受けるだろうからそのように描く。このように第一印象のイメージを表すつもりで描き進めていく。そうするために、バラを見た時、最初の印象ではどのように見えたかに関心が向かう必要があり、それで印象派の絵のベースに近づける。

そもそもの話なのだが、このようなことは気にせずに個々のものをとことん観察し不自然にならないように各々をきっちり描いて、統一感のある画面をつくっていけばよいのだと考えるのも悪くないのは当然であるけれども、ただ、印象派のような絵を描く練習としては気にする必要があるし、印象派の絵の理解も深まると思う。

例えば、上に掲載した作品を見てみよう。花が主役らしいのに、なぜかテーブルと白いクロスの形が際立ってくっきり描かれている(画像を大きくすると分かりやすい)。画像だからではなく実物の絵でも同様と思う。主役が花なら、もっとしっかり描いて目立たせればよいのではないか。せめてテーブルとクロスはもっと弱くした方がよくはないか。それとも、テーブルとクロスを強調して描いて画面を安定させる狙いなのか。絵作りからはいろいろ考えられるだろうが、印象派の画家である作者が最も重視したのは第一印象であろう。柔らかい色合いの大小の花よりもテーブルと白いクロスの四角い形がくっきりと浮かび上がる情景、それを見た瞬間の印象をベースにして描き上げた作品であると言ってよい。作者は19世紀アメリカの印象派の画家、ジョン・ヘンリー・トワックトマンである。

第一印象で感じたことは次の瞬間には違って感じているわけだから、思い出すことをしないといけない。「思い出す」とは、最初の印象に立ち帰ってイメージし、それをずっと気にしつつ描くということで、これは少々慣れがいるから練習のし甲斐があるというものである。ところで、同じようなことを何度も述べている気がして、堂々巡りになりつつあるかもと思うのだが、次回も印象派風の絵を描く話の続きをしたいと思う。