コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その80

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前回の続き。旅行先で気に入った景色を気軽にスケッチできたら楽しいだろうなあと思ったので、それでは絵画教室で習ってみようということなら、まずは写実の練習をすることからで、鉛筆デッサンを始めるのが理に適っている。なぜなら、だいたいの遠近感の表現法や明暗のことなどを知っておくと絵が不自然になりにくい。また、スケッチには鉛筆が便利なので使い方に習熟するとよい。とはいっても、いつまでも根気強くデッサンの練習をする必要はなく、ある程度のところで風景の雰囲気というか印象を鉛筆でササッと描ける練習に移行するべきだ。では、私が勧めたい風景スケッチの好例を挙げてみよう。上に掲載したシニャックが描いたスケッチがそれだ。とても簡略に描かれているが、陽光の降り注ぐ港の雰囲気が肌で感じられるようで、少しだけ施された色彩が美しい。 このような風景スケッチのポイントは、目の前の風景からエッセンスのようなものを抽出することだから、細部まで描き写したい気持ちを抑えて簡略化を目指したい。

 そういうことだから、「旅行先で気軽に風景スケッチが描けるようになりたい」ならば、写実の練習から入って、だんだんと忠実な写実から離れていく必要がある。省略できることを見つけたり簡略に描き表す方法を会得して、鉛筆やペンや色鉛筆や水彩などを自在に使いこなせるようにどんどん練習すれば、自分なりのスケッチ術を身につけることができ、それは自然と忠実な写実から離れることにもつながっていくだろう。

次に、「美術(絵画)への理解を深めたい」とか「一般的な教養として身につけたい」と考えて絵を描く場合はどうか。やはり写実の練習から始めるのが適当だろう。しかしデッサンから始める必要はなくて(デッサンからでも悪くはないが)、油絵や水彩画など好きなジャンルで写実的に描く練習をすればよい。写実の基本はデッサンだと考えて、まずはそこからだという思い込みは邪魔になる場合もある。それよりも油絵や水彩画で写実的な絵を描きながら、写実絵画とそうでない絵の違いについて思考していくことが、「美術(絵画)への理解」や「教養として身につける」にはどうしても欠かせないと言いたい。絵画のスタイルは時代によって大きな変革が起きるが、そこには必然的な理由があるわけで、絵を描く体験をを通して理由を考えることで理解が深まり興味も一層湧いてくるというものだ。

続きは次回に。