コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その81

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趣味で絵を描いている人は、人それぞれの期待や願望があって描いているという話の続き。「美術(絵画)への理解を深めたい」とか「一般的な教養として身につけたい」と考えて絵を描いている人は、まず写実的に描く練習をするとよい。西洋絵画の基本は写実であるから、ある程度に自分で写実的に描けるようになると西洋絵画が分かりやすい。光と陰、立体感、材質感、奥行きなど諸々の表現を実体験するわけだから、徐々に写実絵画への理解が深まるわけだ。また自作について、「いい感じの絵になったなあ」とか「つまらない絵だなあ」と一喜一憂して悩むわけで、おのずと絵画への見識もつくというものだ。

ところで、絵画全般への理解を深めたいならば、写実以外のスタイルの絵画も理解したくなるだろう。そこで例えば、印象派を理解するために印象派風の絵を描いてみようと考えて、写実の練習をせずに性急に印象派の模倣をしたらどうかというと、それでは成果は望めないのだ。出来上がった作品が素晴らしい場合もあるが、それは印象派の表現法がたまたまその人に合っていただけの話で、印象派の成し遂げたことを理解しているとは限らない。もちろん、いい絵を描くという点からすれば理解できていなくても構わない。今は「理解を深める」ならば写実から出発しようと言っているだけ。

もっとも、印象派が何を成し遂げたかを本当に理解するのは案外に難しい。印象派に関しては美術史や美術論などの多くの書籍で詳しく解説されているから、熱心にそれらを読めば理論は理解できる。しかし、モネたち印象派の画家が、どうしてあのような表現の絵を描きたいと思ったのか、なぜそれまでの写実的な描き方を否定する必要があったのか、そのあたりのことは大変分かりにくいのではないだろうか。これらの難問を解き明かすには、自らが気長に絵を描き続けていって、その体験を通してあれやこれやと思考する習慣を持つのが最良だと思う。

上に掲載したのは、モネの1880年の作品。この絵が印象派の理論にしたがって描かれた結果だと考えるのは間違いで、モネには目の前の風景が、現実にこの絵とまったく同じに見えた瞬間があったのだと私は確信している。さて次回は、「絵が好きだからとにかく上手くなりたい」、「コンクールに出品したり個展を開けるようになりたい」という願望を持っている場合について。