コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その79

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前回最後に、「写実から離れた絵を描いていくことについて述べてみたい」と書いたのだが、このテーマは周辺からグダグダと話していかないとうまくいきそうにないので、そうすることにしよう。さて、「あまり写実的に描かなくてもいい絵になるし、そういう絵は古今東西にいっぱいある」のは事実である。このような当然のことをなぜ書くかというと、私が絵画教室でいろんな人に30年以上も接してきて、「写実的に上手く描ける」を最終的な目標においている人が少々多過ぎるのではないかと感じているからだ。そしてその原因を考えるに、「写実的に描けない」と「絵が下手」とがイコールだと信じているところからきているらしい。

ところで、趣味で絵を描いている人は、絵を描くことに何を期待しているのだろうか。あるいは、どのような願望を持っているのだろうか。私が絵画教室で接してきた多くの人の話から例を挙げると以下のような答えになる。

「絵を描いてストレス解消したい」、「ボケ防止に役立てたい」、「一生ずっと続けられる趣味にしたい」、「旅行先で気軽に風景スケッチが描けるようになりたい」、「美術(絵画)への理解を深めたい」、「絵が好きだからとにかく上手くなりたい」、「コンクールに出品したり個展を開けるようになりたい」、「知的な遊びとして楽しめたらよい」、「できれば生きがいにしたい」、「絵で自己表現したい」、「一般的な教養として身につけたい」などである。

 このように各人が様々な期待や願望を持ちつつ絵を描いているわけで、絵画教室の役目は、その期待や願望を実現するための手助けをすることだと私は考えている。ならば、個人個人がどのような目標を持っているのかを慮ってレッスンするのが適切である。けれども、たまにコミュニケーション不足で的外れのアドバイスをしてしまうことがあるのは致し方ない。それはさておき、「絵を描いてストレス解消」とか「ボケ防止」とか「一生続けられる趣味」を期待するなら、何はさておいても描くことが楽しくないと無理が生じるだろう。もし、きっちりした写実の練習が苦痛だったら、自分にはまったく必要ない練習だと割り切った方が晴れ晴れした気持ちで絵が描ける。好きなスタイルの絵をどんどん練習していけばよいわけだ。ここでドランの作品を見てみよう、以下で・・・。

 https://www.youtube.com/watch?v=SIgvQV8Ey34

アンドレ・ドランは、マティスヴラマンクらと共にフォーヴィスムの立役者であることで知られている。しかしそれだけではなくて、様々なスタイルの作品を残した実に偉大な画家であると私は思っていて、どのようなスタイルの作品でも素晴らしい。ドランは、一つのスタイルに拘泥することなく自分が表現したいように描いた。ドランのような、描きたいと思う絵のスタイルを固定観念にとらわれずに自由自在に選んでいける精神の持ち主になれるかどうか、これが楽しく絵を描き続けるコツともいえる。

それでは次に、「旅行先で気軽に風景スケッチを描けるように」とか「美術(絵画)への理解を深めたい」とか「一般的な教養として身につけたい」という願望がある人は、どのようなレッスンが必要となるだろうかと考えると、ひとまず写実の練習から入るのが適切だといえる。その理由は次回に。

掲載したのはドランの「カーニュの風景」(1910年)。セザンヌキュビスムの影響がみられる作品。