コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その71

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好きな画家を見つける話の続き。上に掲載したのは、アメリカの画家、メアリー・カサット(1844-1926年)の作品。前回紹介したラースローに比べるとカサットの作品は、色彩が明るく描き方も精密な描写ではないので親しみやすい絵だと思う。カサットは、初期には古典的な作品をフランスでサロンに出品していたが、やがて印象派の画法を取り入れていく。

カサットがドガの作品と出会ったエピソードが興味深い。ある日、カサットは美術商の店のショーウィンドウでドガパステル画を見つけた。その体験を友人に手紙でこう述べているそうだ。「窓のところへ飛んで行って、鼻をぺちゃんこにして、彼の絵をできるだけ吸収しようとしたものよ」「それが、私の人生を変えたの。私はその時、芸術を見たわ。私が見たいと願っていた芸術を」。この後、1874年にカサットはドガと初めて会い印象派展への参加を勧められ、1879年から1886年まで出品している。

このように決定的な影響を受ける画家との出会いは、自分が進むべき絵の方向を明白にしてくれる貴重なものである。好きな画家を見つけて受ける影響からは、多くの技法書や教室の先生からのアドバイスよりも大事なものを得ることができる。それほど好きな画家を見つけるのは大切だが、同時代、ましてや同国の画家の中から選ぶのはちょっと考えものと思う。というのも、同時代、同国の画家だと作品に共感しやすい傾向があるからで、そうすると、絵の本質が見えにくく上辺のよさに惑わされ感心してしまうことがある。歴史に残ってきた画家の中から見つけるのが無難だろう。この点で、カサットとドガの関係は特別だ、同時代で歴史に残る画家をお互いが知ったのだから。

上のカサットの作品に話を戻そう。ひとりの人物だけをしっかり描く肖像画よりも、このような人物と室内風景(あるいは屋外でも)を組み合わせた方が、絵になりやすいのではないか。この絵のように、人物と周りにある食器やソファや、後ろの暖炉や壁などとの関係を描くのは厄介だが、上手くできると空間を表現できるし色の変化もつけやすい。

 写実的にしっかり描く肖像画では、特定の人物をリアルに、とりわけ顔をリアルに描写できる腕前が必要になってくる。これは結構難題で、頭部の構造を把握し面の組み立てをちゃんと見れて、血の通う肌を表現し、その人物の内面をも捉え・・・と想像するだけで頭が痛い。もっとも、それだから人物画は面白い、描きごたえがあるという意見には反対しないけれども。

次回も、参考になりそうな画家を紹介してみよう。