コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その85

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一口に趣味で絵を描いているといっても絵との関わり方は様々で、「レクリエーションの一つに過ぎない」から「唯一の生きがい」と思っている人まで違いは大きい。私の経験から推測するなら、気晴らし以上の、できれば生きがいになって欲しいと考えている人は案外多いようだ。生きがいだから絵が描けなければ死んでしまうと、そこまで思い詰めるのは御免だが、絵がなかったら無味乾燥な生活を送ってしまうと感じている人は結構いるだろう。さて、生きがいになるように絵を描いていくには何が大切か、前回よりも具体的に述べてみる。

 趣味で絵を描いている人は、本職の画家と違ってどうしても制作の時間や場所を確保しにくい。しかし、日常生活の中に「描く」の定位置を確保しないと生きがいには育っていかない。だから、毎日ちゃんと描くのは無理にしても、例えば毎週何曜日の午後は絵画教室に通うとか、休日の午前は油絵なり水彩画を描くなどの習慣をつけて何年も継続する、これが基本だ。日常生活の中に位置が定まって描くことを習慣化できたなら、自然と以前よりも美術全般へ関心が向くだろう。そうなれば知らないうちに、美術関連の物や情報等が日々の暮らしの中に入り込んでいるという理想的な環境になっている。もし、そうはすんなり行かないと心配するなら、とにかく負担には思わない程度に気軽に実行すると「案ずるより産むが易し」になるだろう。

 また、生きがいにしたいと思うくらいなら絵を描くのがよほど好きなわけで、毎日の暮らしの中でほんの短い時間を使って、「ちょこっと描き」ができるようになればなお素晴らしい。「ちょこっと描き」とは、美味しそうな桃を買ってきたけれども、食べる前にポストカードに水彩でちょこっと描いてみようという気軽なお絵かきのことである。サムホールやポストカード大の水彩紙を用意しておけばいつでも描ける。話は少しそれるが、水彩画を描いているなら水彩での「ちょこっと描き」は大変有意義で、筆運びの使い分け(ブラシ・ストローク)の練習ができる。ブラシ・ストロークは水彩画ではとても大事だが慣れが必要だ。具体例を見てみよう。

上に掲載したのは、40年も水彩画を教えているというイギリスの水彩画家、アンドリュー・ピット氏の作品。画像を拡大して見るとよく分かるけれども、空と海面と砂浜をブラシ・ストロークを使い分けて見事に表現している。例えば海面は、筆にあまり絵具をつけないでサッと掃くように描いてあって、キラキラと光っている感じが絶妙だ。

アンドリュー・ピットの作品は、真に迫った写実絵画というわけではないが、実に臨場感のある風景画だ。馴染みの景色を愛着を持って描いている感じがよく出ていて魅力がある。また、景色に対する愛着だけでなく描くことそのものに深い愛情をもっているようで、絵を生きがいにしたいと考えている人は、こういう誠実な作画姿勢が感じられる作品を模範にすると前に進みやすいと思う。