コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その97

f:id:gaina1995:20211208140810j:plain

 

前回はユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドン静物画を掲載した。ヴァラドンは、正規の美術教育を受けていない独学の画家である。そして裸婦をモチーフにした作品をいくつも描いていて、前衛的だなと思ってしまう。当時のフランスでは、女性がヌードモデルを使って制作する機会を得るのは難しかったと考えられる。女性の入学が認められるようになった美術学校では、ヌードモデルを描けるのは男性に限られ女性には許されていなかったという。そのような社会的背景のなかでヴァラドンは裸婦を描いたのであって、人体を描くことに特別の意味を感じていたのかも知れない。

ヴァラドンの描いた裸婦は忠実な写実とはいえないが、生々しい人間の肉体を感じさせるもので、その点でモディリアーニの裸婦を想起させる。もしヴァラドンが写実で裸婦を表現しようとしたら、これほど魅力のある絵にはならなかっただろう。彼女のいろんな作品を見ると、ヴァラドンに写実表現は向いていないと思われるからだ。

対象に忠実な写実絵画のコレクションで知られるホキ美術館に作品が収蔵されている画家のO氏は、「緻密な写実絵画を描きたいと言う人がいても、私は一概に勧めることはしません。人には適性があるからです」という意味のことを語っている。人それぞれに適した表現の仕方があるわけで、リアルな写実が向いている人はそれを追求し、そうでない人は別の道へ進むのを躊躇することはない。

さて前回は油絵や水彩画で静物画を描くときに、細部まで下描きをせず簡略に描いておくことを提案した。そうした下描きができたら次は色彩をほどこす段階に進む。色を使うのが好きで、早く絵具を着けたくてワクワクしている人には言うべき事はないが、色彩について苦手意識のある人には一つの提案をしたい。それは「画面を支配する色」を暖色にするのか寒色にするのか決めることである。

まずは暖色と寒色の説明をしよう。暖色とは赤・だいだい・黃など暖かい感じのする色で、寒色とは青緑・青・青紫など冷たい感じのする色である。また、どちらにも属さない黄緑・緑・紫などや無彩色は中性色と呼ばれている。上に掲載したのはピサロ静物画だ。この絵を見ると、画面全体から受ける色の印象は「暖かみのある感じ」ではないだろうか。花瓶の青みがかった灰色以外の、画面のおおかたが暖色で覆われているからそのように感じるのだ。

このように画面の主調となる色を暖色にするか寒色にするか決定してから、あるいは決定しつつ絵具をもっていくとバラバラした感じの色使いにならず、色彩に統一感が出やすい。付け加えると、色彩に統一感を与えようとして青系や褐色系でまとめるという手法は、個々の物の色を表すのを重視したいから今は推奨しない。

ところで、色感(色を感じる感覚)は個人個人で独自性があり、それは磨くことはできても変えることはできないと思う。だから、自己の色彩感覚を尊重して絵を描く姿勢が必要だ。間違っても自分は色の音痴だと考えないようにしたい。私は30年以上も生徒の作品を見てきて、色使いがまったく下手な人に出会ったことはないし、練習次第で誰でも色感は磨かれていくと考えている。

画面を支配する色を暖色か寒色かに決める、その次に静物画で取り上げたい問題は、個々のモチーフを眺めてそこから受ける色と形の印象に関してである。この続きは次回にしたい。