コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その98

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私の教室に通う人たちの油絵や水彩画を毎日のように見ていると、時折ドキッとするくらい素晴らしい作品に接することがある。それらがどのような制作プロセスから生まれてくるのか私はとても興味を持っていて、日頃からいろいろと考えを巡らせてきたけれども、そうしているうちに、素晴らしい作品が出来上がる確率が高まるような提案をいくつか思いついた。静物画を例に前回に続けて提案と説明を試みてみたい。

ところで、念の為に書いておくと、「素晴らしい作品」は純粋にいい絵であって、いい絵にプロもアマチュアも関係ない。なぜこんなことを言うかというと、以前は「素人にしてはよく描けている」という言い方があったように思うからで、こういう評は見当違いであることを確認しておこう。

前回は色彩に苦手意識をもっている人は、画面を支配する色(主調色)を暖色にするか寒色にするか決めて制作しようと提案した。次に考えたいことは、静物画のモチーフ全体を眺めたときに最も印象的に見える色と形についてである。上に掲載した作品を見てみよう。トマトの赤色がとても効いている画面になっている。この絵のモチーフが目の前にあったなら、色彩的にはまずトマトの赤色に視線が引き付けられるだろう。この作品は、そういう第一印象がストレートに画面に表れるように色彩をコントロールして描いているのだ。

個々のモチーフの色が同じくらい目立つように描いてしまうと、画面の色彩の印象はうるさくバラバラな感じになってしまう。そこで個々のモチーフの色の印象を比較しなければならない。つまりモチーフ全体を色彩的に見て、より強く主張している色はどのモチーフの何色であるか、他のモチーフの色の印象はどうかを絵具を置くときに意識することが重要になる。画面全体の中で最も主張する色彩が決定されたならば、統一感をもった色彩の印象を表現できる。私が提案したいのはこれだ。

モチーフ全体を見てどのような色が強い印象で目に映るのか、そういうことを大事にしたいと提案すると印象派の絵画を連想するかも知れない。ものの形をしっかり再現する絵と比較した場合には、印象派は色彩をより重視していて形が曖昧になりがちだ。その上で言いたいのだが、いろんな色を使いたい、色彩のきれいな絵が描きたいと思う人は、個々のモチーフの色の印象はどうなのかに鋭く感覚を向けるようにして、印象派の絵画を意識しつつ描いてみてはどうだろうか。個々のモチーフの形を正確に再現することに重きをおかない、立体感もほどほどでよいくらいの気持ちで描く方が色彩の冒険にのめり込める。

さて、上の作品では緑色のティーポットやマグカップの存在感も相当なものだ。それでもモチーフが目の前にあったら赤色のトマトにまず視線がいくだろうが、意図的にティーポットの緑色が最も目立つような絵にしたい人もいるだろう。現実とは違う自分なりのイメージでの色彩世界を実現したい人だ。もちろん、それでも素晴らしい作品は生まれるし、独自性の高い色彩の絵になる。このことについては次回に書きたい。

なお、上に掲載したのは、南アフリカの画家グレゴワール・ブーンザイエ(1909ー2005年)の作品。