コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その83

f:id:gaina1995:20210612140740j:plain

 

前回の話が途中だったので続きを書こう。岸田劉生のアドバイスの「黙ってただ描け。画家はそれ一筋がよい」は、画家の心意気を示したものと思われるが、「四の五の言わずに一心に描き続ければおのずと道は開ける」みたいな精神論で私は好まない。趣味で絵を描いている人は制作に費やせる時間に限りがあるから、具体的なアドバイスを適宜に受けることは上達にとって大切になるだろう。絵を描く人もいろいろだから、あまり考えずにただ黙って描くのが性に合っている人もいるだろうが、たいていは描いている中で何らかの悩みが出てきて、じっくり考えてみたりアドバイスが欲しくなったりすると思う。とくに、コンクールに出品したり個展を開く等の目標があり、熱心に制作に取り組んでいる人は悩みも多くなるというものだ。

さて、前回はそれで二つのことを考えてみようと提案した。写実に軸足をおいて描いているにしても、自分らしい絵にするためには、どの程度に写実性を重視して描くのかということ。もう一つは、写実からまったく離れて描くという選択は、本当に自分には無縁なのかということだ。ともあれ、写実を通して描いている場合には、様々な写実のバリエーションが考えられるといつも意識しておくと視野が広がる。写実的に描いているのだから、必ず形も色もそっくりに描かなければならないと決めてしまうと大変だ。

上に掲載したのは、オーストラリア在住の水彩画家、ジョゼフ・ズブクビッチ(1952年生まれ)の水彩画。さらに彼の作品は以下で見ることができる・・・

Joseph Zbukvic, 1952 | Watercolour Cityscape painter | Tutt'Art@ | Pittura • Scultura • Poesia • Musica

 掲載の作品をパッと見ただけなら、かなり詳細な描写をしているように見えるけれどもそうではない。かなり大胆な省略があるし、色彩も現実とは大きく離れている、つまり独自の観方がある。が、とても現実感のあるリアルな写実絵画に見せてしまう画家の力量に脱帽するしかない。コンクールや個展を目指して自分らしい絵を描くためには、写実で勝負するにしても自分なりの写実を追求する、この問題の理想的な解答の一つが彼の作品だ。ちょっと真似はできないが。

 次回は、「知的な遊びとして楽しみたい」、「できれば生きがいにしたい」と願っている人に向けてのアドバイスを書いてみたい。「遊び」と「生きがい」では随分と差があるように思うかも知れないが、どちらもある面で無欲な心境というか、私は私という境地で絵と関わり合うという共通点があると思う。