コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その69

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上に掲載したのは、ジョン・シンガー・サージェントの水彩画。前回掲載した彼の人物画と同様、やたらに上手い。まず前景の船と後景の建築物との大胆な構図に驚いてしまう。小心者の私にはとてもこんな構図はとれない。水彩画は思い切りが大事で、迷いながら描いていると萎縮した感じになってしまうが、この絵にはそれが微塵もない。実に達者な腕前で、水彩の長所を活かしきったお手本のような作品だ。この作品から学べることはたくさんあるが、最も注目すべきは、「描くこと(もの)」と「省略すること(もの)」を明確に区別している点である。

前々回掲載したダリの作品は細部まできっちりと描き込んでいる写実だが、上の作品はかなり趣が異なる。何が描かれているのかよく分からないところもある。それでも画面の全体が見えた瞬間に、どのような風景なのかがとてもリアルに感じとれる、そういう写実になっている。描くこと(もの)と省略すること(もの)を見極めて絵を創っているから実現できたわけだ。さて、写実で絵を描くにしてもこのようにバリエーションは様々で、自分に合った写実はどのような方向なのかを考えてみることは、制作時間をたくさん取れない趣味で絵を描いている人には大切だと思う。この連載は趣味で絵を描いている人に向けての話なので、とくに強調したい。

ところで前回、ジョン・シンガー・サージェントのような方向の写実を勧めると書いたけれども、もちろん誰でも彼でもにそれが合っているわけではない。「自分に合っている」ことが最優先なのは言うまでもない。そこで、自分に合っている方向をどのようにして見つければよいかという問題に移ることにしよう。まず、前々回のダリの作品のように描くには、画面の細部までコツコツ描き写す作業が好きかどうかで、苦手ならこの方向は合っていないと割り切った方がよい。苦手だから克服しようという気になることがあるが、それはどうかと思う。逆に得意なら、前々回のダリの作品は格好のお手本になるし、そのような緻密な写実絵画を描いている画家の誰かを目標として制作しよう。

目標となる画家、好きな画家を見つけて参考にすると自分に合っている方向が見えてくるものだ。写実絵画のバリエーションはいろいろなので、自分に合っているかどうかすぐには確信が持てないが、それでも好きな画家、つまりその画家の作品が好みであるというのは自己の美意識に合致しているわけだから、同じような方向を目指して制作していくとそれが指針となり迷うことも少ないだろう。