コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その95

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私が日頃接している生徒の作品の中に、時折ドキッとさせられるいい絵があると前回に書いた。そこで今回は生徒が制作している様子をできるだけ思い出しながら、どのような条件が満たされるときに、どのような理由でドキッとするいい絵が生まれるのかを考えてみる。そして、そこから趣味で絵を描いている人が実際に制作に活かせる提案をしてみたい。さて、私の教室では、ほとんどの生徒は主として静物画を描いている。だから静物画の制作を例に、ドキッとさせられるような絵はどのように描き上げられるのかを順を追って見ていき、私の提案を示したい。

まずはモチーフに関して。生徒が描くモチーフは、私が生徒ひとりひとりの顔を思い浮かべつつ、可能な限りその人と相性のよい物を準備する。静物といっても花や果物や器物等いろんな物があるわけだから、人によって好き嫌いや得手不得手が分かれる。Aさんは果物を描くのが得意だがビン類は苦手とか、Bさんは花を見るのも描くのも好きで特徴や色を上手に表現するとか、Cさんはチマチマした細かいもの(枝付きの枝豆など)をコツコツ描くことに長けているとかである。このように人それぞれモチーフとの相性があるわけで、静物画を描くときには、いくつか置かれた物すべてとの相性がピタリと合うといい絵が出来る確率が高まる。つまり作品の運命は、どのようなモチーフを選ぶかでかなり決まってしまう。

もし自宅で、時間をかけてちゃんと作品と呼べるような静物画を描き上げてみようと考えたなら、描きたいなあと強く感じる物で、なおかつ自分と相性がよいモチーフを吟味して選びましょうと提案したい。そのようなモチーフを見つけるには、日頃から多種多様な「物」を描いてみる必要があるのだが、まったく興味がなく描きたくない物を無理して描くことはないだろう。たまに、描きたいモチーフではないけれども、苦手だから克服したいので練習すると頑張る人がいる。私はそれはどうかと思う。勉強ではありませんと言いたくなる。苦手なモチーフが少々あったとしても、得意なモチーフでいい絵が描けるなら何ら不都合はないからだ。

プロの画家はオールラウンドに何でも描けるのではと問われそうだが、それなりに描けるという点ではその通りだ。しかし、静物画の物の相性の話から関連させて述べてみるならば、傑作が生まれるモチーフのジャンルに関しては、画家によってかなり限定されるだろう。モネは風景、ルノワールは人物、モランディは静物にとどめを刺すというように、多くの画家は相性のよい得意なモチーフのジャンルがあり、それに精魂を傾けるものだと思う。話を戻して静物画のモチーフについていうなら、モランディはビン類のような器物のみをモチーフにして描き続け、いくつも傑作を残している。

掲載したのは、前回と同じくベルギーの画家アンソールの静物画。アンソールの静物画にはよく貝が登場する。実家が土産物を売っていて、そこに貝があったからモチーフにしたという話だけれども、アンソールの画風と貝はいかにも相性がピッタリな感じがする。