コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その78

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前回の最後に、「人物画や風景画をメインに描いているけれども優れた静物画も残している画家」と書いたが、そういう画家の筆頭に挙げたいのがエドゥアール・マネ(1832-1883年)だ。マネは歴史画や人物をモチーフとした作品が多いが、静物画の傑作も多い。果物や野菜をモチーフにしたものでも、花をモチーフにしたものでもよいのだが、彼の作品を魅力的にしている理由の一つは、筆運び、ストロークやタッチだと思う。絵具をつけた筆を絶妙なストロークやタッチで画面にもっていく描き方は、自然に物が生まれ出てきたような感じを観者に抱かせる。とても自然な存在感の表現だろう。都会人であったマネには、静物画でちょっと粋なエピソードがある。以下・・・

http://omochi-art.com/wp/a-sprig-of-asparagus/

 ところで、静物画の中でも花を描きたい人は多いだろう。ヤン・ブリューゲル(父)が描いたような精密描写の花の絵も素晴らしいのだが、私としては生徒に参考として勧めるならルドンのパステル画だ。ルドンは私の好きな画家の一人で、その作品の平面性と単純化、そして無駄のない画面構成から数々の学ぶ点があった。

さて、上に掲載したのは、スペインの画家ルイス・メレンデス(1716-1780年)の作品。17世紀のスペイン絵画では「ボデゴン」といわれる静物画が発展した。細部まで克明に描写され量感や質感が追求されているのが特徴で、上の作品もそのようなボデゴンの作例である。こういう圧倒的な写実を見せつけられると、これが写実絵画の頂点といってよいと思えてしまうが、よく考えるとそれも少し違う気がする。技術的な頂点かも知れないが、写実絵画の理想とは決められないだろう、個人個人の芸術観で相違が生じるのは必至だから。そこで「写実」について、さらに深くああだこうだと考えてみるのも面白いテーマになりそうなのだが、一旦その問題から離れて、あまり写実的に描かなくてもいい絵ができる、そんな絵がいっぱいあるのはなぜ?という問題を先に考えてみたい。

「あまり写実的に描かない」とは、以前に述べた「ゆるい写実」よりもさらに写実性を排除するという意味だから、それは大変難しい描き方なのではないかというと、人によってはそうでもない、逆の場合もあると私は常々考えている。あるいは子供の絵のような、他愛のない絵になってしまうかというとそれも違う。次回は、写実から離れた絵を描いていくことについて述べてみたい。