コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その127

 

前回の文末に「印象派風に描く話は次回も続けたい」と書いたが、「その120」から回を重ねるごとにいつの間にか印象派絵画の解説みたいになってきたので、話の方向を軌道修正して続けたい。もともとのテーマは「印象派のすすめ」だったはずで、「その120」の文中にある「私が推奨したいのは、印象派のような絵が描きたいならば、油絵でも水彩画でも最初から印象派風に描く練習をすることだ」を進めていくにはどうするか述べるのが眼目だったのである。ということで、仕切り直しのつもりで書いていくことにする。

あらためて言うと、日本人に印象派絵画は特に人気があるというのは周知の事実だ。それなら趣味で絵を描いている人の中で、印象派風に描く練習をする人が多くいてもよさそうだが実際は違っていて、油絵でも水彩画でも写実画を練習している人が多数派のようだ。なぜだろうか。理由の一つには、初心者が絵画教室に習いに行くと、まずは「写実的に描く練習をさせられるから」があるだろう。私の教室でも、まったくの初心者には写実画を描くことを指導している。それでは上に述べた「最初から印象派風に描く練習をすることだ」と合わないレッスンをしているようになるが、少し事情があるから説明しよう。

中学校の美術の授業以来、絵を描くことと無縁だったというまったくの初心者に対するレッスンとしては、まず絵具の塗り方やどのように色を作っていくか等の画材に慣れる練習が必要だ。また、物に光が当たってできる陰影を描くと立体感が出るなどの基本の描き方の練習も必要だ。これらを理解しやすいレッスンとしては、写実的に描く方法が理にかなっている。だから絵を描き始めたばかりの人は、大体において写実画を練習するのがお決まりのコースになっている。これは「最初から印象派風に描く練習をすることだ」よりも前段階の練習になるわけだ。「最初」よりも「前段階」とは変な言い方に聞こえる、詐欺師みたいだ。しかしながら「最初」と「前段階」を区別したい理由がある。それは、前段階の練習のはずで始めた写実画をなんとなく描き続けてしまう場合が多いと思うからだ。

前段階であると割り切ったなら、これから挑戦する絵画のためのウォーミングアップだと思って早々に止めることができる。本当は印象派みたいな絵が描きたいと願いつつ、写実画をいつまでも練習しているという矛盾を解決できる。写実画の練習は出発前のウォーミングアップくらいに考えておかないと、写実画が上達すればするほど印象派風に描きたい思いと相容れない状態になってストレスが溜まるだろう。

もちろん、写実的に描く練習を続けてどんどん上手くなって、印象派よりも写実の方が性に合っている、こっちが本命だと自覚することもある。描きたい絵がはっきりしたわけで、その道をまっすぐ進もう。好きな絵の傾向は変化することがあるから、そのときに自分に正直であればよいわけだ。

上に掲載したのは1896年のモネの作品。こういう絵を見ると、ますます印象派風に描くことを勧めたい気持ちになる。続きは次回に。