コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その120

 

印象派の絵画が並ぶ美術展があると大賑わいになるから、日本人に印象派は人気が高いと言えそうだ。実際、教室の生徒に好きな画家を尋ねるとモネやルノワールなど、印象派の画家を挙げる人は多い。ラファエロフェルメールなど古典絵画の巨匠を挙げる人も時々いるが、ピカソやブラックなどの名前はまず出てこない。

もともと絵が好きで、殊に印象派の風景画が好きで自分でも絵を描きたくなって、その気持ちが高じて絵画教室に通うようになった人は少なからずいると思われる。そういう人たちは、印象派の絵画が理想的だと思っているはずだけれども、絵画教室で描いている絵がかなり写実絵画に傾きがちになるのはどうしてだろう。印象派の絵画が理想的だと思っているなら、自分でも印象派風に描いてみるのが自然の成り行きというものではないか。それは静物画でも風景画でも同様だろう。

そうではない、いきなり印象派風に描くのではなく初めは写実を練習していくのが正しい勉強法だとする考え方もあろうが、人それぞれで最適な絵の勉強法があってよいわけで、あまり頑なにならない方がよいと思う。私が推奨したいのは、印象派のような絵が描きたいならば、油絵でも水彩画でも最初から印象派風に描く練習をすることだ。では「印象派風」に描くとはどういう意味なのか、これを説明していこう。

印象派の特徴に筆触分割とか独特の色彩理論があるのはよく知られているが、そういう理屈はとりあえず気にしないで、要はモネやシスレーなどの印象派画家の作品を真似ればよいわけだ。模倣は上達の第一歩である。それでは、どういうところを真似ればよいか。上に掲載したモネの作品を見てみよう。雪景色の積みわらを描いた作品で、前回掲載したデッサンとの関連は調べていないので不明だが、両者の構図やモチーフの捉え方は酷似している。2つの積みわらだけをはっきりした表現で捉え、手前の地面や遠景の家屋や樹々、山は総じておぼろげな形と色彩で統一されている。なぜそう描いたかというと、モネがこの景色を目の当たりにしたまさにその時、視線は圧倒的に2つの積みわらに引きつけられ、雪景色の中で光を浴びた積みわらの印象に感動したからに他ならない。他の事物には関心が向かわず印象が薄かったわけで、それを正直に描いた結果である。

印象派風に描くためにこのことから学べるのは、静物でも風景でも対象全体をパッと見た時に、視線を引きつける印象の強い事物は明瞭に、強く、詳しく表現してみることである。反対に第一印象が弱いものは、たとえ近くに位置するものでも強く主張しないよう配慮して描くわけだ。それではものの位置感、遠近感が正しく表現されないのではないかとの疑問には、次回に答えたいと思う。