コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その128

 

少し間が空いたけれども前回の続きを書く。

印象派風の絵が描きたいと考えている人は、習い始めの最初の段階だけ、ウォーミングアップのつもりで写実画を練習するのがよい。それによって絵具の扱いに慣れて色の作り方や塗り方のテクニックを知ることができる。物に光が当たってできる陰影を捉えると立体感が出せることも理解できる。ウォーミングアップだから、「実際にはうまく描けないが、だいたいのことは分かった」状態に達すれば上等で、写実的描写表現の練習はさっさと切り上げて印象派風の絵を目指すのが得策である。

さて、印象派風の絵が描きたいと考えて練習するならモチーフは風景が最も相応しいのだが、もし静物に取り組むのなら草花がよい。上に掲載したモネの作品を参考に見てみよう。参考になるところはたくさんあるのだが、以下の点に特に注意を向けたい。まずは形の取り方だ。形の正確さに欠ける描き方をしている。しかしボタニカルアートを描くわけでないから、形の正確さはこういった自然物では結構アバウトでよいと思った方が硬い感じにならずに、かえって自然物の形らしさがリアルに出るものだ。画面下部の花瓶のような器物はアバウト過ぎると「ゆがんでいる」印象になりやすいから、ある程度は正しく捉えるのが無難。印象派風に静物画を描くなら、このように形をアバウトに捉えてもマイナスになるどころかかえってプラスの効果が期待できるモチーフ、草花など植物を選ぶと取り組みやすい。

次に上の作品で色の塗り方、絵具の置き方に注目しよう。きれいに塗っていないことがよく分かるだろう。これは大事なことで、きれいに塗り過ぎると往々にして変化が乏しく平板な画面になり、印象派っぽい色がきらめく感じが出ないものだ。初心者の油絵ではしばしば見られる。言うまでもないがこれは印象派風の画面作りの場合で、そうでないなら話は違ってくる。

さらに上のチューリップを観察してみよう。花も葉も立体感に乏しくお互いの位置関係がよく分からない。形と同様にアバウトな捉え方に見えるが、作品の実物を見たらもっとちゃんとしているのだろうか。たぶん、ちゃんとしていないと思う。なぜなら、モネの絵作りの眼目がその点にないからだ。印象派風の絵を描くときには立体感や位置感を重視し過ぎないないように、かといって無視するのではないが、より重視するものが他にあると考えつつ制作するのがよいだろう。続きはまた次回に。