コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その125

 

今回も写真を見て風景画を描く話をするのだけれども、印象派風に描くなら多くの点でモネの作品が参考になるだろう。色彩につては前回に少し触れたので、今回は別の角度からモネの作品を見て参考にすべき点を考えたい。

上に掲載したのは、モネが描いたルーアン大聖堂の連作の一つである。モネのルーアン大聖堂の連作は33点にも及ぶ。それほどモネはこのモチーフに執着したが、大変にエネルギーを要する制作となったようだ。1893年4月には、エネルギーを使い果たしたモネは制作を中止してジヴェルニー(自宅のある所)に帰り、3日間寝込んだということだ。また、残された手紙から、モネがこの連作の制作に相当苦労していた様子もうかがわれる。画商のデュラン=リュエルに、「自分がここでやっていることに完全に自信を失い不満足だ。理想が高すぎて、よかったものまで駄目にしてしまう始末だ」と書き送っている。もっとも、これらの連作はアトリエで仕上げられ、20点が1895年にデュラン=リュエルの画廊で発表されて高い評価を受けた。

さて、ルーアン大聖堂の連作はモネの渾身の力作なのだが、その仕事でモネが追求したのは何かという深いことは参考にしにくい。具体的にヒントを与えてくれるのは些末な事象で、例えば形を取るときのラインの性質だ。実際のルーアン大聖堂を写真で見ると直線が際立つ建築物で、垂直方向の直線を束にしたような外観をしている。もし、その写真を見て水彩画を描くのなら、外観や細部の形を下描きするときに、定規を使ってまっすぐに正確なラインを引きたくなりそうだ。ルーアン大聖堂に限らず建築物は、屋根や窓や外壁、入り口など直線的なラインであることが多い。だから、ビルの窓のように直線的で形や大きさや向きが揃っている場合だと、少しでも歪んだりズレたりすると変な絵になってしまう。と、思い込むのは危険である。そういうヒントが上の絵から得られるだろう。

上のモネの描いたルーアン大聖堂には、歪んでいないまっすぐな直線を見い出すことが難しい。どのラインも微妙に歪んでいる、というか、震えている。それで変な絵になっているか、もちろんなっていない。その理由はともあれ、建築物を描くとき、まっすぐな線を正確に引かなくてもよいわけである。殊に印象派風に描くのならば。複雑な建築物を描くときに形のラインを正確に引いて、どこがどうなっているのかを説明するつもりの絵を描くと、それでは印象派風にならないだろう。対象を見たときの印象(とくに色彩の)を画面に表したいと思っても追求しにくいと思う。

それでは建築物以外でも、整ったラインで形を正確に描くと印象派風の絵にならないのかと問われそうだが、この話の続きは次回に。