コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その124

 

前回の続き。印象派風の風景画を描く場合に、写真を見て描くのもよいだろう。本来、印象主義の画家たちと同じ絵を描くのなら、キャンバスや水彩紙やイーゼル等をかついで野外に出掛け現場で制作するの一択だ。しかし、印象派風の明るくきれいな色の絵を描きたいだけで、印象主義云々の理屈には興味がないなら、写真を使って描いてもいっこうに差し支えない。ただ、その際に難しいのは、色彩が単調に陥らないように工夫する必要があることだ。

写真を見て描くと写真と同じ色に写そうとする気持ちが勝って、単調な色使いで描き進んでしまい易い。写真に写った物の色彩は単調な色味になるからで、つまり緑の葉の陰は紫色には写らない。緑の葉の陰は、緑が暗く写るだけである。では、どう工夫するとよいか。上に掲載したモネの作品を例にして説明してみよう。

この作品はとてもシンプルな絵のつくりになっていて、前景の逆光になっている暗い色の葉と、その向こうの広々とした草地と林、そして遠景へ続く一本道とで構成されている。一見単調で面白味のない景色だが、それでも単調で退屈な印象の絵になっていないのは、色彩が豊かであることが大きな理由だろう。例えば、手前の逆光になっている葉や草地のところの色彩は、写真では写らないであろう色数の多さが見られる。写真に写らないのは、そこにそんな色がないからだとは言えない。「カメラの眼には見えなかったが人の眼なら見える色」だと考えるなら不思議でも何でもない。人は人でもモネだから見えた色と言われると困るが、本質はカメラと人の眼は同じ色を見ないという問題である。だから写真の色彩は、実際に見て感じる色彩よりも単調で貧弱であるという前提で、使う色の選択の幅を広げる必要がある。

ついでに書いておくが、これはあくまでも印象派風のカラフルな絵を描くのには必要という話で、明暗の変化の妙を重んじて美しい調子の絵を描くならそれほど重要ではないだろう。例えば銀灰色の素晴らしいコローの風景画のように。

印象派の画家の中で、最も印象主義に忠実だった画家はシスレーと言われている。しかし「印象を表現する」ことに最も徹した画家はモネで、印象派を超えた特異な存在だといってよい。そのモネの作品からは、より自由で個性的な印象派風の絵を描くヒントを得られると思う。続きは次回に。