コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その117

 

前回同様、デッサンを習うことについて述べてみたい。さて、とても写実的な絵を描きたい人は、最初にデッサンから習った方がよい。けれども、絵画教室に通ってデッサンを習い始め自宅でも熱心に練習して、物の形や立体感や質感を的確に表現できて遠近感も出せるくらいに上達したとしても、油絵や水彩画でデッサンと同程度に上手く描けるとは限らない。両者の出来に顕著な差の出る人は普通に存在する。私が美大受験のために通っていた美術研究所やその後入学した美大の頃を思い出すと、デッサンが得意でも油絵はイマイチである、またはその反対である人は私を含めてかなりいた。どうしてそうなるのだろうか。理屈から考えると、写実的な絵を描く場合には、デッサンが上手なら油絵や水彩画も上手に描けるはずである。

もちろん、色彩感覚は個人個人で異なるから、色を捉える必要のある油絵や水彩画よりもモノクロで描くデッサンが得意であるのは理解できなくもないが、その出来の差が相当あるときには不可解な現象だなと思う。原因をよくよく考えてみると、デッサンでつかんだ微妙な明暗の関係を色彩に十分変換できていないからだと言えるだろう。つまり個人の色彩感覚の差が大きな要因だとするならば、デッサンばかり練習していてもダメなわけで、色を使って描く練習を同時並行する必要があるだろう。

趣味で絵を描く人は余暇を利用するわけだからその時間は貴重で、最初にデッサンを習うとしても、ある程度のところでひと区切りつけて油絵または水彩画を始めたいと考えるのは当然だ。しかし、ひと区切りがデッサンの練習を止める意味なら実にもったいないと思う。ある程度デッサンを練習した後に油絵や水彩画を始めても、デッサンの練習にも少しでよいから時間を割いて続けると先々の絵の進み方が違ってくる。

ところで前述したように、私の学生の頃の話でデッサンが得意で油絵はイマイチの人がいたことを述べたが、その逆もあるので考えてみよう。デッサンは苦手だが、油絵や水彩画など色を使って描くといい絵ができる場合である。そういう絵の好例は、趣味で描いている人に多く見られるというのが私の実感だ。前回の最後で触れたことと関連するが、この場合の絵の傾向ははっきりしていて、リアルな写実で描こうとしていない絵である。「描こうとしても描けない」を含めてもよいだろう。そして、その人たちはデッサンをほぼ習ったことがないという共通点がある。そういうことなら、わざわざデッサンを習わなくてもよいのではないかと疑問が起こるが、この続きは次回に。上に掲載したのは、上手いというよりは魅力があると言えるゴーギャンのデッサン。