この連載は、趣味で絵を描いている人の制作に役立つヒントとなるように考えて書いてきた。それで静物画についても、的確なアドバイスだと思ってもらえることを目標としたい。私の教室では静物をモチーフとすることがほとんどなので、日々生徒が静物画に取り組んでいる様子を見ていて感じたことを踏まえて、様々なことをちょっと詳細に書こうと思う。
水彩や油彩で写実的な静物画を描こうとするとき最初に考えることが二つあって、何をモチーフとするかということ、そしてそれをどのように配置(構成)するかである。まずはモチーフ選びについて述べてみよう。
モチーフを何にするかは頭を悩ます問題だろう。時折生徒から「何を描けばよいですか」と問われることがあるけれども、「描きたいものを描くのがよいです」というのではまったく答えにならないから、あれこれ具体的に、リンゴは?オレンジは?秋だから柿やブドウはどう?カボチャもいいけれど・・・などと話をするのだが、実は肝心なのは何を描くのかではなくて、何と何を描くかということなのだ。
メキシコの画家、ルフィーノ・タマヨはスイカの絵をたくさん描いていて、上に掲載したようにスイカだけを描いた絵もある。このように1種類の物だけを配置してモチーフとし、この絵のようないい作品を創るのは極めて難しい。やはり2種類以上の物を組み合わせてモチーフとし、物と物との違いを描くことから練習しよう。複数の種類の物を上手に選んだ方が、面白い絵作りができると思う。それでは、複数の種類のモチーフをどう選ぶかについて。
具体的に、2種類の物をモチーフとするときのことを考えてみる。いくつかの赤いミニトマトをモチーフに使うとして、それと組み合わせる相手は、マスカットがよいか桃がよいかをみてみよう。色の取り合わせをイメージしてみると、ミニトマトの赤色にマスカットの黄緑が響き合ってきれいな絵になりそうだが・・・。でも形の取り合わせをみてみると、マスカットの粒とミニトマトでは、どちらも同じくらいの大きさの似たような丸い立体物である。そうすると、画面には単に同じような丸い形がたくさん描かれているだけの絵になる。単調ですこし退屈な感じを受けないだろうか。
では桃を選んだらどうだろうか。桃も丸い立体物だがミニトマトとは大きさが随分違うし、丸さもいびつで表面に模様という変化もある。だから、マスカットを選ぶよりもずっと形のバリエーションが多い画面となる。色彩は、桃が赤系の色とクリーム色なのでマスカットと比べるとぶつかり合いはないが、そこは工夫のしようがあると思う。
ミニトマトとマスカットの方がきれいな絵になりそうに思うのは、つい物の色彩に眼を奪われてしまうからだが、いくつかの種類のモチーフを選ぶときには、とりあえず色よりも形を大切にする方が面白い絵になりやすい、これが私の結論である。しかし、色彩を軽視していい絵になるわけがないので、次回は、モチーフを選ぶときに物の色彩についてどう捉えていけばよいかを考えてみようと思う。