コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その114

 

前回に紹介したジョン・ヘンリー・トワックトマンは滝を描くのが好きだったらしく、前回掲載の作品以外にもナイヤガラやその他の滝をモチーフにしている。いずれの作品もざっくりと描かれてはいるが、滝らしいリアリティーは十二分に表現されている。ところで、そういう意味では上に掲載したモンドリアンの花の絵は異質で、生の花らしさが感じられない。それでも不思議と美しさを湛えた画面になっていて、モンドリアンが捉えたかったのはリアルな花らしい美しさではなく別の美しさであるといえる。花を花らしく描かなくても美しい絵になるわけで、ざっくりと描く場合には、こういう絵もありだと考える方が練習しやすいし上手くいく。

さて、油絵は1枚描くのに水彩画の何倍も時間が掛かるのが普通だが、油絵を始めた人はこの点に注意を払う必要があるだろう。1枚描くのに時間が掛かるから、例えば週に1回の頻度で教室に通って静物画を描いている人は、今日、調子よく描き進んで見えていたものが来週再び続きを描く段になると、「見えていたものをすっかり忘れている」という状態になりやすいと思う。つまり、感覚としてつかんでいたものが何処かにいってしまった感じなので、続きを描くのが容易でない気持ちになりやすいと思う。この問題をクリアーしないと油絵はスムースに上達しにくい。

ではどうすればよいかというと、その日の描き終わり時にスマホ等で作品とモチーフの写真を撮っておこう。そして、次に描くまで毎日その写真を見て、続きをどう描くか考えたり、制作のシミュレーションを頭の中で繰り返したりしてみよう。そうすることで実際に描いていなくても作品との関係を持続できる、というか、感覚的に忘れないための予防効果があるだろう。

それでも本当のことを言うと、油絵の練習方法としては週に1回教室に通って描くだけというのは、早く上達したいならかなり無理がある。やはり自宅での制作が必須で、そうでないとなかなか油絵をものにできないと思う。その点水彩画は制作時間が短くてすむから、例えば教室で3時間描いたなら1枚完成させることが可能だ。そうすると、どんどん作品が出来上がってくるのだから、自然と上達も早くなるわけだ。週に1度くらいの頻度で絵を習い始めようと考えている人で、油絵か水彩画かどちらにしようと迷っているなら、私は水彩画を選ぶことを勧めたい。いや習い始めるならデッサンじゃないの?デッサンも短時間で描けるし・・・と思う人もいるだろうが、その問いに対して、私は「うーん、答えにくいなあ」と言うしかない。その理由も含めて、次回はデッサンを習うことについて考えてみたいと思う。