コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その118

 

私の経験から言うと、絵画教室に通って習うつもりの初心者からの質問では、「デッサンから始めた方がよいですか」と聞かれることが多い。推測するに、どうやら世間一般に絵画の基礎はデッサンだから、そこから習い始めなくてはいけない・・・これが常識として捉えれているからではないか。いや、それは常識ではありませんと私は言いたいわけで、絵を習おうとするときに、デッサンの練習が「最初に通らなければならない関門」ではないことを説明しようとここ何回か書いている。さて、前回の続きの話をしよう。

「克明に描く写実画を指向していないなら、最初にデッサンを習う必要があるのか」というと、それは必要ないと思う。そもそもデッサンの練習で学ぶことを油絵や水彩画を習ったら学べないかというと、当然そんなことはない。絵画教室で教えている立場から言うなら、油絵や水彩画を描いている人にも形や立体感や、質感や遠近感などデッサンと同様の事柄についてアドバイスする。更に加えて色彩の関わりや絵作りに関することなどに触れていくから、デッサンの場合よりアドバイスすることの範囲が広く多様になるのである。その違いがあるだけだ。

しかしそうなると、いろんな事柄でアドバイスされる生徒の側からすると、ちょっと整理して学びたい気持ちになるかも知れない。この場合には、デッサンを習うとポイントを絞って学べるから利点が大きい。その気持ちになったらデッサンを練習しようと考えておいて、最初に必ず習うべきものとは決まっていないと思ってよいわけだ。

さらに説明する。初心者が習うデッサンは写実的に描くことを本来としているので、練習する内容が限定的であるために理解しやすいのだが、写実的に描きたい人にはとても有益である反面、そうでない人には切実な必要性が感じられないだろう。つまりデッサンを最初に習う必要がどのくらいあるかは、個人個人で違ってきて当たり前なのだ。具体的にいうと、写実的に人物画を描きたい人は、デッサンから習い始めるのが必須といってよいし、印象派のような風景画や静物画を描きたい人は、油絵や水彩画からはじめてデッサンは後回しにしてよいのである。

趣味で絵を描く人は余暇を利用するのだから、貴重な時間を大切に使いたいと思っているだろう。それなら一番したいことから取り組むのがベストである。克明な写実画、写実的な人物画、デッサンに特に興味がある、そして、何を習うかまったく決めていない等の条件に当てはまらないならば、絵画教室で最初に習うのはデッサンではなくて、油絵や水彩画などの方がふさわしい選択だと私は考ている。

上に掲載したのはボナールのデッサンだ。写実的に描かれていないので、現在デッサンを習っている人から見れば、これがデッサンと呼べるのか疑問に思うかも知れない。デッサンというより鉛筆画と呼ぶ方がよいのだろうか。この続きは次回に。