コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その102

f:id:gaina1995:20220407150358j:plain

 

私は教室の生徒の作品に接していて、時折、すごくいい絵だなあと感心させられると述べてきた。そして、それらの作品にはいくつかの共通点があることを指摘しておこう。今回はその共通点の一つである「物の立体感が弱い」を取り上げて、前回までの提案の話を続けていこう。結論を先に書いておくと、立体感の弱さは絵をまずくするのでなく大変プラスに働く場合がある。

上に掲載したのはモネの作品。たくさんの桃が描かれているが、どれも立体感の表現はひかえめである。というか、はっきり言って立体感がちゃんと出ていない。私が画学生の頃、デッサンの練習では「実際に手でつかめるくらいの立体感を表現せよ」と先生から言われたもので、これらの桃は手でつかめそうに全然見えないと叱られそうだ。それではこの作品はまずい絵なのか、もちろんそうではなく、素晴らしい絵だと私一人が感心するだけでなく、これまで世界中の多くの人に感動をもたらしてきたと想像できる。

なぜモネが立体感を重視しなかったのかという問題は脇に置くとして、実際につかめそうな立体物に見えない原因は、的確な調子(明暗)で陰影を写実的に描き入れていないからである。物の立体感を出そうとするなら、光が当たっているところと陰になっているところを描き分ける必要がある。的確な調子で陰影を施すことができれば、リアルな立体感が表現できる。しかしこれが難しい。なかなか的確な調子がつかめず、明るくし過ぎたり暗くなり過ぎたりしてうまくいかない経験を持つ人は多いと思う。

さて、生徒の中には、そもそも立体感を表現することにさほど興味がない人たちもいるわけで、必然的に立体感の弱い作品となる。そういう人があっと驚くようないい絵を描く確率が高いように思えて理由をあれこれ考えてみると、「物の陰影をあまり気にしていない」から「画面全体を明るい色でとらえる」し、「色彩に個性が出てきて美しい」といえるのではないか。他にも理由をいくつか考えられるが、これらの影響は大きいだろう。

静物画を描くときに、物の立体感にこだわって一生懸命に陰影を正確に描こうとするあまり、何回も塗り直したり塗り重ねたりするうちに色が濁って暗い感じなってしまうことがあるが(とくに水彩画)、立体感を気にしなければそうはならない。そういうことなら、デッサン力をもっと鍛えればよいのだ、調子を厳しく正確に見極められるように練習すべしと結論するかというと私は別の提案をしたいわけで、「物の立体感は弱くてよい」と考えることを勧めたい。こう考えを決めてしまうと色彩がより自由に使えると思うからである。色彩をのびのび自由に使えるというのは、いい絵を創っていく過程で大変プラスに働くことは間違いないだろう。

ところで、「立体感が弱い」は「立体感がまったくない」とは異なる。ほどほどの、ぼんやりした立体感は出ていることなので、物を意識的に平面化するわけではない。ちょっとややこしい。この続きは次回に。