コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その113

 

前回の続き。油絵を始めたばかりの人から、中描きの段階で厚塗りをするのは分かったが、どのような色を使えばよいのかと質問されたので、それを説明したい。この段階で厚く塗るときには、原色(彩度の高い色)を使うのは避けた方が無難だ。原色を多用すると明暗をつかみにくいからで、そうするとまとまりのない画面になりやすい。原色は避けて、少しおさえた色を使うとよい。おさえた色を作るには混色をするわけだが、例えば緑色に黄色を混ぜてもおさえた色にはならないから、緑と反対っぽい色とか白を混ぜて鮮やかさを落として使う。そもそも油絵の色の出し方として、描き始めはおさえた色を使い、仕上げに近づくに従って鮮やかな色を加えていく描き方が初心者には向いていると思う。

ところで、油絵を描き始めた人の中には、「油絵は水彩画と違って何度でも直せるから描きやすい」と考えて始めた人もいるだろう。たしかに一旦乾燥させれば描き直しは容易だが、油絵の初心者の多くはデッサンの初心者でもあるので、細部まで完璧にしようと修正を繰り返すならば無限ループに陥るかも知れない。そこで勧めたいのが、中描きの段階だけでなく最後までざっくりと全体を捉える描き方で完成させることだ。

ざっくりと捉えるといっても乱暴な描きなぐりではダメなわけで、ではどのような絵かというと、上に素晴らしい作例を掲載したのでよく見てほしい。作者はアメリカの画家のジョン・ヘンリー・トワックトマン(1853-1902年)である。細部まで描写していないけれども、激しい勢いで流れ落ちる滝の様子がひしひしと伝わってくる。滝の水流を如何に表現するかがこの絵の眼目だが、このとき油絵は描き直せるからと思いつつ、迷い迷い筆を運ぶならいつまでも上手くいかない。油絵を描いているとこういう場面が度々あり、結局のところ「描き直せる」というよりは、いくらでも描き加えることができると考えた方がよいわけで、直せるからと万が一の保険があるように考えてしまうのはどうかと思う。

ジョン・ヘンリー・トワックトマンの作品をいろいろ見ていると、ざっくり描かれていても大変緊張感のある繊細な画面になっている。彼の作品の魅力は、微妙な色彩のニュアンスや変化の豊富なマティエールで、じっくり見ていると深い趣が感じられる。ざっくり捉えて描くことと適当に描くことはまったく異なる意味である、それを彼の作品は如実に表している。

次回も油絵の話の続きを書く予定。