コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その107

 

このブログの「その95」から書き続けているテーマは、私がとても感心させられる生徒作品の共通点を考察して、趣味で絵を描いている人たちへ参考になりそうな提案を試みるというものだ。具体的に、静物画を描くときの提案を述べていきたい。

絵を描き始めてそれほど長くない人は、静物画を描くとき、モチーフのリンゴやオレンジや種々の器物等の輪郭をはっきり分かるように描いている人が多いと思う。どういうことかというと、上に掲載したデッサンのような捉え方はしていないだろう。このデッサンは画面の左側が暗部だが、そこの顔の輪郭は描かれていない。顔の陰とバックの境目がないのだ。それでも、この絵を見る人は女性の顔の形を正しく思い描くことができるという離れ技なわけで、熟達した画家がなし得る表現の一例である。

物の輪郭(アウトライン)は、静物画のように描く対象物との距離が近いと明瞭に見えるから、くっきりとした輪郭にしたくなる人は多いと思う。別の言い方をするなら、バックと物の際(きわ)を明確に描き分けたいという気持ちが強いだろう。バックと物の際、つまり境目をあやふやにしたくない気持ちはよく分かるが、場合によってはそれがのっぺりとした平板な絵を描いてしまう原因になることがある。「のっぺりとした平板な絵」を具体例で示すなら、黒色の台紙の上に押し花をいくつか貼り付けた画面を想像してもらいたい。個々の押し花の輪郭がほぼ同程度にきれいに見えているので、画面に空間があるという感じが弱い。これでは多少なりとも奥行きを表現したい人には不満足な画面であろう。

ところで、私が感心させられる生徒作品は物の際(輪郭)をどう捉えているか。どのくらい意識しているかは本人に聞いていないので分からないが、何気なく描いているようで結構的確にきまっていて「上手いなあ」と思う。どう上手いかというと、物の際の捉え方が画面の空間をつくっていくプロセスと一体となっている。「物の際を描く」ということ、「空間を表現する」ということの両者が自然と同じ意味を持つに至っているのである。

さて、そこで提案なのだが、油絵や水彩画で静物画を描くときに物の際をどう描くかに拘ってみる。ひとつの物の輪郭を描くときに、均一の明瞭さにならないように工夫してみる。上のデッサンのように輪郭がない箇所があってもよいわけだ。そして工夫することで、画面に空間が生まれてきたか気にしてみる。空間といって分かりにくければ、一体感のある雰囲気と言い換えてもよいであろう。付け加えるなら、静物画を描いていて、いつもバックが上手くいっていない気がしている人には特に試してほしい提案である。有益なヒントやキッカケを得られると思う。

上の素晴らしいデッサンは、肖像画で名を挙げたジョン・シンガー・サージェントの作品。物の際の話の続きは次回に。