コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その100

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私は毎日のように生徒の作品(油絵や水彩画)に接しているが、時折ドキッとさせられるようないい絵を見ることがあって、大変失礼ながら、この人はこんなにいい絵を描けるのだと驚くと同時に、美術の不思議さも実感している。それで、ある人が普段よりも格段にいい絵を描き上げる場合には、いったいどのようなことが起きているのかを考えてきた。それをもとに前回同様、殊に絵画教室に通っている人の参考になりそうな制作の提案をしていく。

上に掲載したのはルノワールの作品。前回のボナールの作品と見比べてみよう。ボナールの作品は、実物のモチーフを見たときの印象とは別の印象にする意図があって色彩をコントロールしている。このことは前回に述べた。上のルノワールの絵ではどうか。花瓶よりも画面中央あたりの花の色彩に視線が向かうように描かれているわけで、実際にこの絵のモチーフを見たときに受ける自然な印象をそのまま表現している。色彩については、こういう見えたままの印象を尊重したい。

静物画を描くときに見えた通りの色彩の印象をうまくつかむポイントは、物の色の強弱をしっかり見ることである。ある物の色を他の物の色と比較して見て、どのくらい目立っているか目立たないかを的確につかむ。これはなかなか難しいことで、前回述べたように初歩の人は上手く描けないことがあるけれども練習次第と考えよう。

色彩の印象を色の強弱の問題から考えると、目の前にあるレモンの黄色をまったく同じ色に再現できなくても同じ強さの色になればよいわけで、そう思えば色をかなり自由に使えるのではないか。もちろん、たとえ同じ強さの色になっても、黄色のレモンを青色に置き換えるのはいろいろと無理が生じるから勧めない。しかしレモンを描くとき、まったく同じ色に再現する努力よりも、同じくらいの強さの色にしようとする意識の方が必要である。

静物画を描く場合に、個々のモチーフの色を忠実に再現することばかりにとらわれないようにする。目の前に組まれたモチーフそれぞれの色は、画面全体の色彩のバランスからいってどのくらいの強さで主張しているのか。最も目立っている色はどのモチーフの何色か。最もおとなしい控えめな色のモチーフはどれか。モチーフ全体を見て、物の色彩の強弱を順位付けてみる。このような色彩の設計をしつつ描くことを提案したいと思う。

次回も静物画を例にして色彩について述べる予定。