コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その44

f:id:gaina1995:20191230220858j:plain

 

私の教室では水彩画のモチーフに花を時々使うけれども、経験を積んだ生徒もそうでない生徒も花の形をとるのには苦労している様子で、前回も書いたが、花は描いている間に変化してしまうから正確に写すのが難しい。写真を撮って利用するとよいのだが、その手法をとらないのなら、花の形を正確に写すことにあまりこだわらない方がよい、そうでないと絵が硬くなることがある。

さて、水彩画は美しい色彩を出しやすいから花を描くのに向いている。それでも、自然の色、例えばゼラニウムの花の赤色を絵具で表現するのには限界がある。だから時折生徒から、「この花の色は何色と何色を混ぜればよいですか?」と質問されるが、絵具でその色を出すのは不可能でしょうと答えることが間々ある。そもそも花の色を、その色だけのことを考えて同じようにしようとするのは勧められないし無理がある。なぜなら、ものの色は周辺の色の影響を強く受けるので、画面内の他のものやバックなどの色との相互作用でどう見えるかが決定されてしまうからだ。

そういうことからすると、花の色を表現しようとするときには、感覚を鋭敏に働かせて、とくにバックの色との相互作用を考え「実物そっくりの色」よりも「実物に近い美しい色」を出そうとした方がよい。バックの色との相互作用と書いたが、要はバックの色を効果的に使うということで、赤い花の色を生き生きと際立たせようとしたら、やはりバックは反対色の青系か緑系にするのが相応しい。かといって極端になってはぶち壊しで、例えばオレンジ色の花のバックに鮮やかな青色をもってくると道路標識のように目立つだけの感じになってしまう。明確な違いをつけるより、微妙なさじ加減というものがとても大切になることが絵では多い。

 ところで、水彩画で写実的に描くのが難しいのは白色の花だ。透明水彩の場合は白色の絵具を使わず紙の地の白を活かすのが基本だから、花を彩色するときには絵具を薄く溶いて白さが損なわれないよう注意して陰影をつけていくけれども、何色で陰影を施すのかが問題になる。では、どのような色がよいかというとバックと同系色にするのがポイント。青系のバックにしたのなら花の陰影の色も同じ青系を使うと自然な感じに見える。それを青系のバックなのに茶系の色で陰影をつけると枯れたように見えてしまいかねない。

掲載したのは、ジョージア・オキーフのカラーを描いた作品。白い花で、バックはピンク、陰影はグレーである。先ほど述べたばかりの、「バックと陰影は同系色」ではないのにとても自然で美しい白い花の例としてあげてみた。腕がよければこう描いてもうまくいくわけで、絵を描くのにひとつだけのルールを当てはめてよしとするのはちょっと危険といつも自戒している。