コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その47

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前回の続きで風景画について書こうと思うが、その前にゴッホ展を見たのでそのことを少々。風景画を描くとして、写実的に描くとして、それでもやはりゴッホの風景画のような絵もあるのだということをいつも頭の片隅にしっかり置いておくことが如何に大切であるかを私は痛感した。殊に「糸杉」を見てそう思った。

私にとってゴッホ展での白眉は、なんと言ってもメトロポリタン美術館所蔵の「糸杉」である。これにはとても衝撃を受けた。「糸杉」は画集ではよく見知っていた作品だけれども実物に初めて接して、画集の図版から受ける印象とはまったく別のものであることを知った。ダ・ヴィンチラファエロティツィアーノデューラーレンブラントルーベンスフェルメールルネサンスバロックの巨匠の作品に接すると、私は「人間にここまで素晴らしい絵が描けるのか!」と大いに感銘を受けるのだが、「糸杉」はそうではなく、「人間が描いたとはとうてい信じられない」という人類を超絶した何ものかの創造物であって、これがキャンバスと絵具で作られた物であると確信できなくなってしまった。感動して大げさに書いているように思われそうだが、見たのがもう10日も前のことなのに「糸杉」についての感想を変える気にはならない。

さて、それでは前回の続きを書くことにする。風景画を描くときに、とくに街中など建築物の多い風景を描くとなると、パース(パースペクティブ)という遠近法を知ってないといけないのですかと教室の生徒から質問されることがある。たしかにパースは建物などを歪まないよう自然に表現し遠近感を出すのには便利な知識で、簡単なことでよいから知っておくに越したことはないと思う。また、自然な遠近感を表現するには、近くのものはハッキリと遠くのものはボンヤリと描く方法(空気遠近法)も役に立つ知識だろう。写実の風景画で遠近感を表現するのは大切なポイントだから、これらの知識をごく簡単にすこしだけでも知っていると描きやすいと思う。

それでは、風景を描くときには何が何でもこれらの知識に沿って描かないといけないのかと問われれば、初心者であっても経験者では尚の事そんなことは全然ないですと私は言いたい。とくにパースは便利ではあるけれでも縛られるべき法則ではなくて、臨機応変に利用すればよいのではないだろうか。上に掲載したのは佐伯祐三の佳作だが、パースは結構アバウトな使い方をしている。

次回も風景画について述べる予定にしている。