コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その101

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前回の続き、というか、「その95」から続けている提案の話の続き。

静物画を描くときはモチーフ全体を見て色彩の印象をうまく捉えるとよいと前に述べたが、好例を示してさらにしつこく話そう。上に掲載したのはマネの作品である。主役のモチーフは中央の魚(サーモン)だ。しかし、画面を見てまず視線が向かうのはレモンだろう。そこにだけ鮮やかな黄色が置かれているからで、色彩の印象からいうならモチーフの中でレモンが最も主張している。ここで考えたいのは、主役のサーモンに視線が集中するようにレモンの黄色をおさえた鈍い黄色にするとどうなるかで、たしかにサーモンの存在感は強まるかもしれないが、今よりずっと退屈で無難な絵になりはしないだろうか。

なぜなら、実際はレモンがとても鮮やかに見えているのにそう描かないというのは、作為的な不自然な雰囲気が画面に漂ってしまいそうで、レモンの色の印象をありのままの見え方になるように描く方が現実味が出ると思うからである。ところで、大事なことだから前回の繰り返しを気にせず書くと、「ありのままの見え方」は「ありのままの色」を意味しない。ありのままの見え方というのは、物を見たときに色をどのくらいの強さとして感じ取ったかを問題にしている。モチーフそれぞれの色を見比べたら、はっきり目立つ色もあれば地味でおとなしい色の物もあるわけで、それらの色の強さの度合いを見えた通りに描くことだ。物の色をありのままに、まったく同じ色に再現することを必ずしも意味しない。

さて、色彩に関して上に述べたことを私は重視しているので、生徒へのアドバイスも自然とそういう話になるのだが、色を説明するときに困ることが時々ある。水彩画のレッスンで、「ここの色はもう少し暗くしましょう」と言っても通じないが「もっと濃く塗りましょう」と言うと納得してもらえるとか、「バックをもっと明るくするとよいですね」では通じなくて「もっと薄い方がよいですね」なら分かってもらえるとかである。例えばバックを黄緑にしている人に、「もっと明るい方がよかったですね」とコメントするとさらに黄緑色を重ねて塗ってしまう場合で、それではより暗くなってしまう。「もっと薄く塗った方がよかった」と言えば通じたわけだ。つまり、色彩を明暗で説明すると通じにくい。これは当然といえば当然で、デッサンの練習をした人には理解できるけれども、そうでないなら色彩を明暗で捉えるといってもピンとこない人が多いだろう。

だからといってデッサンの練習を始めましょうという提案はしない。そうではなくて、水彩画でも油絵でも色を使うときには常に明るいか暗いかを気にする、そういう意識を忘れないようにすることを提案したい。さらに、明るい色と派手な色は同義語ではないし、暗い色と渋い(地味な)色も同じでないという区別も知っておきたい。こういう簡単な色彩の知識はあった方が断然便利。

次回は、静物画を描くときに悩む人が多い物の立体感に関しての話をしたい。