コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その65

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前回取り上げたシャガールの作品は幻想的な世界を描いたイメージ画だが、現実の世界を反映したイメージの絵もあって、上に掲載したベン・シャーンの作品がそれだ。このようなイメージ画の場合、テーマを考えて現実世界の様々な情景をイメージし、それらを構成し一つの画面に統合する。ということは、テーマからいろいろなことや情景が連想できないと先に進めないから、自由な想像力が必要であり、次に構成力がいたって大事ということになる。それでもシャガールの作品に比べると、ベン・シャーンのこの作品は現実世界を描いているから遥かにとっつきやすい、見るのも描くのも。

私の教室では写実絵画を基本に指導しているわけだけれども、これは矛盾するのだが、生徒の中にイメージ画を描きたい人が出てきたらよいのになあと思っている。もちろん写実が悪いわけはなく、写実をとことん追求していく制作姿勢も勧めたい。それでも、みんながみんなお行儀の良い写実ばかりの教室というのは、私の理想とすこし異なる。

さて、イメージ画に限らないがもし写実からやや離れるとしたら、形からだろうか、色からだろうか。ガチガチの写実を窮屈に感じた人は、まず「そっくりの色」から離れる人が多いように思う。対象と同じ色を出そうとせずに自分なりの色にしようとする。自分なりの色といっても、赤いバラを緑色で描くわけでない(描いてもよいが)なら「ゆるい写実」であって、写実に窮屈さを感じたらまずは試してみる価値がある。ものの色というのは思いの外融通がきくもので、それはリンゴに当たる光の種類でリンゴの色がどんなに変わるかを観察すれば分かる。蛍光灯、白熱電球、朝日、直射日光、カーテン越しの日光などの違いでリンゴの色も変化する。つまり、厳密な固有色は存在しない。

 それゆえに、色彩ほど自由な造形要素はないと私は考えていて、対象をそっくりに描写する絵は合わないと感じたなら、「ゆるい写実」を描くつもりで色彩を工夫するところから始めると先々の目処が立つと思う。しかし、描写的な写実絵画から完全に離れたいと考えるなら、対象に頼らない自由な形と現実の世界にない自由な空間に取り組んでいかなければならないだろう。ともあれ、「ゆるい写実」の話を次回もまだ続けたいと思う。