コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その63

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この連載は、趣味で絵を描いている人、殊に私の教室の生徒を念頭において役に立つ話になればと思って続けている。今回は前回の続きで、描く対象を選ぶときにどのような考慮が必要か、つまりはモチーフの選び方についてのまとめを書いてみたい。

趣味で絵を描いている人の多くは、休日や教室でのレッスンだけが自由に絵を描ける時間で、毎日好きなときに好きなだけ描けるわけではないだろう。教室の生徒の話を聞いても、「スケッチくらいはできるけれども、落ち着いてちゃんと絵を描ける時間は取りにくい」という意見がほとんどだ。それならば、休日や平日の少し空いた時間が確保できた場合に、それを有意義に制作に使えるよう何を描くのかを慎重に選ぶ方がよい。描きたい対象が決まっているなら問題ないが、何を描こうか迷うなら静物が最も適していると思う。なかでも花や植物や果物や野菜類などがよい。また、陶器やガラス器や布製品やちょっとした器物を組み合わせても面白い。そのようなモチーフの静物画を描くということだ。

 写真を使う風景画も描いていて楽しいものであり、気に入った風景写真があって絵にしたいと思ったなら早速実行するのがよいけれども、そういうものがないなら、とにかく静物画を勧めたい。なぜなら、やはり実物を目の前にして描くといろいろ得ることが多い。目の前に置かれたものなら、自然と観察を深めつつ描くことになる。観察すればするほど微妙なこと、複雑なこと、例えばごく些細な色の差異などが見えてきて、画面が単調な方向に流れることが起こりにくくなる。花や植物や果物や野菜類などは、そういう微妙な、複雑な表情に富んでいるので描きごたえがある。また、エスキースを省略してぶっつけ本番で取り掛かっても苦労することは少ないだろう。

ついでに述べるなら、花や植物や果物や野菜類などの他には、松ぼっくりクルミ等の木の実 や貝殻も絵になる自然物だと思う。これらは花や果物みたいに腐ったりしないから、何日でもかけて描くことができる。さて、以上は写実的に描くこと、そういう絵を前提にしている。私の教室の生徒は、ほぼ全員どのようなモチーフでも写実的に描いているのでこれで話はおしまいなのだが、上に掲載したザオ・ウーキーの作品のような絵が描きたいと考えている人には、ここ何回かの話はほとんど参考にならなかったと思う。もしかしたら、教室の生徒の中にもこんな絵が描きたい人がいるのかも知れない。それで次回は、こういう構成されたイメージの作品を描きたいとしたら、何を考えどうすればよいのかについて私なりの意見を述べてみたい。