コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その64

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花や風景を写実的に描こうと考えて、写真を見ながらそっくりに描き写して絵にするのは、なかなか骨の折れる制作方法だ。だが無心になってコツコツ描き写す作業は好きな人にとっては楽しいもので、時間をかけた作品が完成したときの達成感は格別だろう。ところで、このようにして描かれた絵は独創性に乏しいから芸術性が低いかというと、まったくそんなことはない。そもそも独創性と芸術性とは無関係で、独創的なスタイルだから芸術作品だとは決められないと私は考えている。数々の美術作品を見てみると、独創が単なる思いつき、新奇なアイデアに過ぎないものが時折存在しているからだ。もちろん、独創と高い芸術性が同居している作品も美術史上には多数登場する。上に掲載したシャガールの作品などがそうである。

さて、私の教室の生徒は皆さん写実的な絵を描いているのだが、もしかしたら、シャガールみたいなイメージ画を描きたいと密かに思っている人もいるかも知れないわけで、もしそうなら、そういう人へどのようなアドバイスができるかを考えてみたい。最初に出鼻を挫くようだけれども、シャガールのように幻想的なイメージをモチーフにして絵を描く手法は、上手い下手はは別にして、すんなりとイメージが頭に浮かんでくる人と、どうしてもイメージが思い浮かばない人とに分かれてしまう。後者は考えに考えやっとイメージを絞り出しても、それは前者のイメージより自由さや豊かさが貧弱でありきたりに陥りやすい。私自身は後者だから、モチーフを幻想世界に求めずに現実世界で探している。

シャガールのモチーフは彼の頭の中にある。そのイメージを絵にするわけだから、もともと幻想的なイメージが頭の中で自然と生まれてこない人にとっては、シャガールのような絵を描くことは「相性が悪い」といえるだろう。しかしそんな人でも、幻想的なイメージを構成した絵が好きだから自分でも描いてみようというチャレンジ精神は、表現活動の眼目だから思いとどまる必要はない。実際に制作するとして、まずは作品のもととなるイメージを固めるところからだ。イメージを固めるといっても、貧弱なイメージを少ししか想像できないようでは先に進めないから、連想ゲームのように次から次に空想を展開させていく、物語を紡ぐように。豊富なイメージが頭の中をぐるぐる回り出したら、それらのイメージを表現したいことに合わせて取捨選択していく。これで絵を創る素材が揃うわけだ。

さて、頭の中のイメージは最初にスケッチ用紙などに描き出さなくてはいけないが、これが結構厄介で、実際に描いてみるとイメージのあやふやさが目に見えるかたちで顕になることが多い。本画に取り掛かる前にこの段階で、つまり下絵を描く段階のことだが、ここで手間を惜しまずに粘ってみるというのがオーソドックスな進め方、なおかつ満足のいく作品を描き上げるのには大変重要だと私は考える。