コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その62

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前回の続きの話をしよう。私の教室では、生徒が描くモチーフは私が用意している。切花や植物の鉢植え、果物や野菜類などで、たいていの人が見て「きれいだな、魅力があるな、描いてみたいな」と感じるようなものを選んでいる。樹根のように一部の人しか興味を持ちそうになく、しかも念入りなエスキースを必要とする対象は避けているわけだ。花瓶に生けられた花を描くなら、あえて制作意図など意識しないままで、ぶっつけ本番で水彩画や油絵に取り掛かったとしても制作途中で困ることは少ないだろう。レッスンでは、描きたいなあと思っているうちに、新鮮な気持ちが削がれないうちに描き始め描き進めていくことを大切にしている。だから時間をかけてエスキースをすることはない。

何を描くかによってエスキースの必要性の度合いは変わってくる。モチーフを選ぶときにはそういう制作プロセスもよく考慮するべきで、樹根のような対象に取り組むならば、ぱっと見て面白そうだからすぐ描きますみたいな直情径行は避けた方が失敗作を量産しないですむだろう。また、エスキースの必要性は表現スタイルにもよるわけで、キュビズム風の絵を描くなら制作意図は明確なので、どんな対象を選ぶにしろエスキースを省くわけにはいかないし、シュールレアリスムの絵なら容易にその必要性は想像できる。上に掲載したのは藤島武二の作品で、美しい海景のこのような絵の場合はどうだろうか。簡略化した表現なので、軽いスケッチくらいはしたかも知れないが、その後は一気呵成に描き上げたと考えるのが妥当かなと思うけれども、藤島武二にどのような制作意図があり何を目指していたかが私には不明で、簡略化した絵だからエスキースはしなかったと決めつけるわけにもいかない。

始めに戻って教室のレッスンのモチーフだが、花や果物や野菜やらでは随分と月次な対象ばかり描くことになり面白い絵ができないとか発展しないかというと、アンリ・ファンタン=ラトゥールを例に出すまでもなく、月次なモチーフでもいい絵は生まれる。描き方も月次でよい、とは語弊があるのだが、あえて言うとそれでもいい絵ができるのは確かである。さて、何を描くのか対象を決めることについて、つまりモチーフの選び方について「その58」から述べてきたが、まだ「まとめ」に達しないので次回も続きを書きたい。