コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その53

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前回の続き、風景画の中の樹木の色についてを書くことにする。私は街の景色よりも自然が豊かな風景を描くのを好むが、それでいつも苦労するのは樹々の色彩だ。樹々の色は緑かというとそんな単純な話ではないので厄介だ。樹木の種類や季節の違いで色彩が変化するのはもちろん、青葉の茂っている1本の木にしても、陽が当たって輝いている部分と緑陰ではまったく別の色になっている。それでも紅葉や雪景色を描くのでないなら、やはり緑色のバリエーションを駆使して樹々の色を表現していくわけで、風景をよくよく観察して画面の適所に相応しい緑色の絵具を置いていく、でもこれが大変難しい。

新緑の頃に自然を描くとどうしても鮮やかな黄緑色を多用したくなり、どこにどれだけ必要かが見えていないと(イメージできていないと)、いたる所に派手な黄緑色を置いてしまい落ち着きのない感じになりかねない。鮮やかな色をたくさん使えばきれいな画面になるかというとそうでなく、たいていは騒がしく軽薄な雰囲気の絵になってしまう。掲載したのはアルベール・マルケの作品。マルケは、海辺や川のある風景やパリの街を穏やかな色彩と単純化したフォルムで表現した。彼の絵は地味な色彩が特徴だが、私が実際に見たどの風景画も生き生きした色彩のハーモニーが美しく、派手な色を使えばいいというものじゃないよと言いたげである。

掲載したような風景画では画面に占める緑の面積が広いから、どのような緑色を選ぶかで雰囲気がガラッと変わってしまう。緑色は油絵具でも水彩絵具でも多くの種類が販売されているから、それらを直に使ったり別の色を混ぜたりすると豊富なバリエーションが考えられるし、黄色と青色を混色してできる緑色も用いるとするとさらにバリエーションは増えるから、緑色の色数には限りがないことになる。その中から画面にピタッとくる最適な緑色を見つけるのはかなりの難題だ。

 ところで、教室で生徒の作品を見ていると、Aさんが使う緑色とBさんが使う緑色のバリエーションは少なからず違っている、似ていない。だから、Aさんが使う緑色とBさんが使う緑色をお互いが使えるようになると、両者ともに使える緑色の手持ちが増えるのになあとつい思ってしまう。しかし個人個人の色感の相違を考慮すると、人それぞれで好みでない、使いたくない緑色があるのは当然であるから、AさんとBさんの緑色が同じになるはずもない。風景画において樹々の緑は、自然を深く観察して吟味した「自分の緑色」で表現しようとする気持ちが必要と思う。