コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その52

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ある街の風景を描こうとしたら、絵になりそうな魅力的なものとそうでないものが混在しているので困ることがある。そのような場合、私は眼前の風景の切り取り方をいろいろ試してみて、構図に工夫を凝らして何とかしようとする。不要なものを省略した構図をとったりもする。上に掲載したのは、前回同様に東山魁夷がヨーロッパの街を描いたもの。視点が絶妙な円形と矩形の対比が美しい構図で、この構図をとれたことで作品の8割がたは出来上がったも同然だと思う。風景画は、構図次第で秀作になったり凡作となったりすることが多い。

同じ対象を描いた複数の画家の風景画を構図に注意して見比べると、風景画を描くときのヒントをもらえるかも知れない。パリの街をモチーフにした画家と聞いて私が思い浮かべるのは、ユトリロ佐伯祐三荻須高徳の3人だが、彼らの作品の構図を比較してみると興味深いし、絵とは関係ないこともいろいろ想像してしまう、例えばそれぞれの性格とか暮らしぶりとか。ともあれ、ユトリロはオーソドックスな(つまり工夫のない)構図の作品が目につくし、荻須はかなり工夫した構図をとっているようだし知的でもある。佐伯は対象を相当にデフォルメした構図をとっていることが多くて、それが感覚的なものなのか冷静な分析によるものか、もしくは両面あるのかよく分からない。いずれにしろ、この3人の画家の作品を画集やネットで多数探し出して、構図の違いに注目しながら鑑賞すると結構面白い発見があるのではないか。

さて、「街」をモチーフとするよりも私は田園風景などの自然を描く方が好きだけれども、そのとき何が難しいかというと樹木を上手くとらえることだ。里山や高原や渓流や池畔など描く気をそそられる所には種々の樹木がつきものだから、それらを自らが納得できるくらいに表現できないと不満が残る。油絵や水彩画の技法書を繙くと、針葉樹はこう描いて広葉樹はこう描くと感じが出るなどの描き方が載っているが、ちょっとした参考にするくらいにして、やはり頼りになるのは自分の眼の力しかないから、実際に実物を見て描く練習に励むのが結局は近道だと思っている。

風景の中での樹木の役割はとても重要だから、コローやルドンやセザンヌや多くの画家がそれのスケッチや習作やらを残している。風景画を描くのが好きで、それが上達していくようにするためには樹木の表現の研究は欠かせないように思うがどうだろうか。次回も続けて風景画について書くことにする。