コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その46

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私の教室では静物画を描くことがほとんどなのだが、時折生徒から、旅行先などで撮ってきた景色の写真を見て描きたいという要望がある。今回は、そんなケースを考えて風景画の制作について述べてみたい。

まずは私が風景画を描くときにどのような方法をとっているかを書くことにする。風景画を描くなら、現場にイーゼルを立て風景の只中で制作することが理想的と思っていて、絵具箱とイーゼルを背負って野外での制作に出かけるセザンヌの写真を見るたび、画家らしい姿に憧れを感じたものだ。ところが、実際に自身が現場で描く段になると、夏は汗だくになるしヤブ蚊にせめられる、冬は手がかじかむしトイレが近くなる、気候の良い春秋でも風の強い日はイライラするし、雲が多いと陽が照ったり曇ったりで気分が落ち着かない。要するに、たとえ理想的でも私には現場主義が向かないことは明らかで、かといって風景画は描きたいから別の方法をとっている。

それはやはり写真を利用する方法だ。使っているのが古いコンパクトカメラだからありきたりの写真の質だが、枚数をたくさん撮るようにしている。現場の景色を広範囲にパノラマ写真みたいに撮っておくと、その場所の雰囲気や空気感みたいなものを思い出しやすい。さらに、撮影場所をすこし変えたり部分的にクローズアップしたりして撮っておくと参考資料になる。また、コンパクトカメラで普通に撮ると広角になって肉眼で見た感じと違ってしまうので、ちょっとズームにするとよいと思う。そして必ず現場ですることは、「スケッチを描く」である。いくら写真を利用するといっても一枚のスケッチもせずに、写真だけを見て作品を描くことは気がすすまないのだ。たとえ短時間の走り描きみたいなものでも、それがあるとないとでは制作に取り掛かったときに歴然と違いが出る。

 私はスケッチをする場合は、鉛筆かペン(万年筆など)を使っている。水彩で軽く彩色するときもある。短い時間で4号くらいの小画面に描くことにしている。スケッチをすることは、写真を利用して風景を描くときにぜひ試して欲しいと生徒にもよく提案している。スケッチが上手くできませんと言う生徒もいるけれども、スケッチは上手である必要はなくて、後でそれを見て現場の情景がイメージできるようにするためのもので、正確な形や細かいところは写真を見ればよいわけだ。

 掲載した風景画の作者は、19世紀のドイツロマン派の画家フリードリッヒ。次回も風景画の続きを書くことにする。