コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その45

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花を描く話の続きを書くことにする。油彩で描くにしろ水彩で描くにしろ、花をモチーフとしたときに結構悩むのはバック(背景)をどうするかではないだろうか。私が教室の生徒によく聞かる質問は「バックは何色にしたらいいですか?」というもので、「ともかくバックなのだから、どんな色でもよいから後ろの方に見える色をおきましょう」という答えしか思い浮かばないというか、それしか答えようがないから困る。

バックの色を選ぶときにモチーフの花の色との相性ばかりを気にしすぎると、配色としては美しい画面になってもバックが後ろにあるようには見えず、奥行きのない平板な絵になることがある。写実で描くとしたら、やはりバックはちゃんと物より後ろに見えてほしいと思う。しかし、そもそもバックというものは難題なテーマなのである。

 思い出話をすこし書く、正確な記憶ではないが。今から40年ほど前に私は武蔵野美術大学で油絵を学んでいた。教授たちは学生が制作中のアトリエに時折顔を出すのだが、ほとんど指導はなかったように思う。ちょっとしたコメントを言うときもあるが、何も言わずにぐるりとアトリエ内を見て歩き黙って退出することも多かった。もちろん学生側から質問すれば答えてくれるが、質問する学生はあまりいなかった。そうこうしているうちに作品が出来上がり次の課題の制作に移る。これを繰り返してある程度作品が溜まったら、いよいよ緊張する合評会が開かれる。

合評会というのは、アトリエに学生全員(30人ほど)と教授、助教授、講師が一堂に会して、学生一人一人が順番でそれまでに出来上がった作品すべてに容赦ない批評を浴びる場で、為にはなるがなかなか大変なのである。どの作品も、教授たち全員から褒められることはまずない。ごくたまに優秀な作品は評価されるが、残念ながら私はそういう記憶に恵まれていない。

 ところで、合評会での批評で印象に残っているのは、「この作品のバックはバックになっていない」とか「このバックはいい、空間になっている」というバックに言及したもので、なるほど、物とバックの関係をしっかりと構築するのは難題だなと思ったものだった。そう思ったのは、つまり画面の統一的な空間をつくることに対する意識が当時は弱かったからだろう。

さて話を戻して花を描くときのバックだが、水彩画に限っていうと、バックをどのようにするか困ったら、何色でもよいから多量の水でごく薄く溶いた絵具で淡く彩色する方法を練習してみるとよいと思う(ただし白い花以外の場合)。花に色を着ける前に先にバック全体に薄く色をおき、それでバックは出来上がりにして後で色を加えることはできる限りしない。それから花を彩色していくわけだが、絵具の濃淡に十分留意して前にある花、後ろにある花の違いが出るように丁寧に慎重に描き進めていく。勢いよく急いで描くと失敗する。まずはこのようにバックを淡く着色するパターンを試してみるとよいのではないかと思う。

上に掲載したのは、アンリ・フォンタン=ラトゥールの「春の花」1878年。白い花をモチーフにしたときには、ついバックに暗い色をおきたくなるがこの作品ではそうでない、難しいことをしているなあと感心する。