コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その40

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写実的に静物画を描くとして、複数の種類の物をモチーフとするとき、物と物の色の取り合わせは何に留意して決めればよいだろうか。今回は、モチーフにする物の色彩について考えてみたい。

例えば、レモンとサクランボを組み合わせて描こうと思うとき、サクランボは佐藤錦のような国産のものとアメリカンチェリーのどちらを選ぶかによって、画面の見た目にどのような違いが生じるだろうか。実際にその2種類のサクランボを買ってきて、レモンと並べてみよう。そうすると国産のサクランボよりもアメリカンチェリーと組み合わせた方が、メリハリのついたはっきりした感じの絵になりそうな気がすると思う。

そこで理由を考える場合に、レモンの黄色とアメリカンチェリーの赤紫色が反対色だからとすぐに結論付けるよりは、レモンとアメリカンチェリーとの色の明度差が大きいからくっきりとした感じが出るのだと、このことが先に頭に浮かぶ方がよいと思う。つまり、レモンは明るい色の物体、アメリカンチェリーは暗い色の物体であるという点を最初に注目しようとする見方が大切だと私は言いたい。というのも、画面全体にあたえる影響を考えるとき、何色かということよりもその色が明るいか暗いかが非常に大きな問題だからだ。

私は趣味で絵を描いている人と長年接してきて、どうしても伸びなやむ人は明暗についての感じ方が原因になっている場合もあると考えている。だから教室の生徒が静物画のモチーフを組むときも、物の色そのものよりも明るい色、暗い色という明暗に関心を寄せるようにアドバイスすることがある。ところで、明るい色、暗い色と説明しても明るい暗いという意味が通じないことがあり、そういうときに私は、薄い色、濃い色と言い換えるのだけれども、これは極めて不正確な言葉なので断腸の思いである・・・というほどでもないが、やはり色彩の3属性である「色相」、「明度」、「彩度」は理解して区別できるに越したことはないだろう。

 モーリス・ドニは、「絵画とは、まずある秩序をもって集合された色彩によっておおわれた平面である」と述べているが、色彩を選ぶとき、黄色とか青色とかオレンジ色などの色の違い(色相という)だけを気にしても到底上手くいかないのであって、物の色を明暗で捉えて、とても明るい色、やや明るい色、すこし暗い色、たいへん暗い色などという見方が必要と考え、静物画のモチーフを選ぶときにもそのことに気を配ると望んでいるような結果に近づけると思う。

静物画のモチーフにする物の色彩を明暗で見ることを意識して(ついつい何色と何色を合わせるときれいだろうということだけに眼がいくけれども)、どのくらいの明るさの何色がピッタリだとイメージして物を選んで描き始めると、その方が失敗しない。それに何色と何色の取り合わせが美しいかは、気にしなくても自然と気にしているもので、比べて色の明るさ暗さは微妙に気にしにくいと思う。それでは、明るくもあり暗くもある色の物体、例えばガラス器などはどうなのよと問われそうだから、次回は、モチーフにする物の材質について考えてみたい。

掲載したのは、シャルダン静物画。