コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その34

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前回の続きを・・・。

趣味で絵を描いている人が人物画をある程度ものになるように練習したいと考えても、これまで述べてきたように難しい面があるのは否めないけれど、それだけ挑戦のし甲斐があるとも言えるから、人物画に興味があるならぜひ取り組んでみましょうと私は教室の生徒に提案している。それで練習するときに一番苦労するのはやはりモデルの問題だろう。人物を実際に見て描くのではなくて、写真を活用して描く手法でうまくいくようなら、練習がとても容易にできるわけだから、そういう手法で制作して魅力的な作品になるようにしよう。つまり、人物画のスタイルを自分なりに工夫してみるというのはどうだろうか。

そういうスタイルを模索するときに参考になるのが過去の巨匠の作品だ。古典ではなく19世紀以降の優れた画家の人物画に注目してたくさん見てみると、自分の好みに合った人物画を描くための多くのヒントが得られると思う。具体的に画家名を思いつくまま列挙すると・・・・・マネ、ドガ、ルドン、ロートレックゴッホゴーギャン、メアリー・カサット、ルソー、ボナール、パスキン、キスリング、デュフィクリムトバルテュスルシアン・フロイド・・・・・

上に掲載したのは、ルシアン・フロイドの「子猫と少女」(1947年)。ちょっとイラストっぽい感じがするけれども、人物の不思議な存在感が只事ではない。写実に徹しているわけではないのに妙に生々しくリアルな感じがする。写真を見て人物を描くと、モデルを見て描くときよりも存在感をしっかりと表現するのが難しい。この絵のように存在感の強さを大切にしたいものだ。ではなぜ存在感を表現しにくいかというと、例えば顔を描くとして、写真からでは目や鼻や口や頭部全体がどのような立体的な形をしているのかよく分からないので、陰影を入れても不自然になりやすいことが理由の一つだと思う。

それならいっそ日本絵画みたいに陰影を省略するスタイルでどんどん制作していく手もあって、実際にゴッホゴーギャンの人物画は陰影がかなり省略されている。まったく陰影を省いても素晴らしい人物画は描ける。アンドレ・マルローが絶賛したという京都の神護寺三像を見ればそれは明白で、西洋の写実とは異なるけれども、人物の存在感や性格までもがひしひしと感じられる写実の人物画の傑作だと思う。ついでに言うと、こういうスタイルの人物画には美術解剖学の知識は必要ない。書店に行くと、人物画を正しく(?)描くためのテキストが多種多様に並んでいて、すごく役立ちそうな参考書(海外翻訳書に多い)もあれば、それほど必要でもない知識満載の本もある。あくまでも自分の制作にとって役立つテキストかどうかだから、これを知らないと絵が上手くならないのだと考えるより自分の絵と相談だろう。