コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その29

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私が主宰している教室では、油絵よりも水彩画を描いている人が多い。そういう人たちの作品に日々接していると、水彩画を始めたばかりの人でも大変美しい色彩の絵を描き上げることがあって、私はけっこう感動している。作者の色彩感覚が優れているのはもちろんだが、それよりなにより、モチーフを見て感じた色を素直にストレートに塗っているためだと思われる。

絵を描くとき、色彩ほど自由にできて感覚にまかせて描いてプラスに働くものはない。空間や形をデフォルメするのは相当に厄介なことを含んでいるけれども、色彩は自分が感じた色をそのまま塗ってみればよい・・・と書くと、ではヴァルールの問題はどうするのかと聞かれそうだが、そういう諸々の大事なこともとりあえず横において「感じた色をそのままおく」ことから描き始める方がよいと思う。

レモン一つを描くにしても、しばらく見つめているといろんな色が感じ取れるだろう。けっしてパレットに並んでいるレモンイエローを塗っておしまいにはできない。緑っぽい黄色のところやオレンジ色がかったところがあったり、とくに陰になっている部分からは微妙な色味を感じるのではないだろうか。水彩画の技法書を見ると、陰影の色を作るときには何色と何色とを混ぜるとよいと書いてあるが、それを参考にしながらも自分が感じた色に極力近づけたいものだ。

もちろん、物だけの話ではなくバックの色彩も同様で、感覚を研ぎ澄ましてバックにふさわしい色を感じ取る必要があって、とくに静物画ではバックの色をどうするかで画面全体がよくなったりダメになったりすることが多い。明暗の関係は同じでも色を何色にするかによって全体の印象がガラリと変わってしまう。 

 

ところで、私は美大生時代に講評会で「色はきれいなんだけどねぇ・・・」と先生からたびたび言われたものだが、その意味するところは「色彩以外は全然なってない」ということなので、けっして褒められたわけではない。しかし、感覚を自由に純粋に働かせてその結果を最も大切にするなら、まずは「色がきれいな絵」を目指すのはそれほど間違っていないと考えるようになってきた。とにかく色をきれいにしようと思うと、知識に頼ったり考えることより感じることを優先しようとする姿勢につながることもあるからだ。

具体的にいうと、水彩画でリンゴやオレンジを描くときに立体感を出そうとしてしっかりと陰影を施したら、とたんにリンゴやオレンジが暗い感じになって色の輝きがなくなってしまうことがある。これは、陰影の色の出し方にも問題があるのだが、一つには「立体感を出すためには陰をしっかり描くのがよい」という考えにとらわれていることにもよるだろう。実際はそれほど暗い陰の色を感じていなくてもずいぶん暗い陰をつい入れてしまう、感じていないけれども知識上そうする方がよいと思ってしまう。感じるままの色を表現することを優先したなら、もっと美しい色彩の絵になったのに。

案外に絵の知識は役に立たない場合がしばしばあるけれども、自分の色彩感覚を信じてそれをストレートに描いてみたなら、ちょっと変な絵になったけれども色がきれいないい絵になったなあと実感できるのではないかと思う。

ところで、いろんな画家の作品画像をちょっと集めてみた。絵の表現の仕方は描く人の数だけあるなあと実感。下記をクリック・・・

 

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上に掲載したのは、ボナールの「チェリー」。