コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その26


この連載では、絵を趣味で描いている人、殊に私が主宰している絵画教室の生徒の皆さんを念頭において、「どうしたらいい絵を描けるようになりますか、上達できますか」と質問された場合に私が説明したいことを書いてきた。ということは、週に1回程度は絵画教室に通ってレッスンを受けている人をイメージしていて、そういう人に話しているつもりで進めてきたわけだ。
それで今回は、その教室でのレッスンについて、どのようにとらえて練習していくのがよいかを考えてみたい。

私は、初めて絵を習う人でも油絵、水彩画、デッサンなどどれから始めてもよいと考えているけれども、絵を習いたいのだが何から始めようか決めていない人も多くいるから、そういう人にはデッサンから始めてみましょうと提案している。
さて、これまで私は、趣味で絵を描きたい人が誰でも本格的なデッサンを練習する必要があるわけではない、ケースバイケースだと述べてきた。「・・・その22」でも書いたように、絵画の基礎的な勉強をするときに、写実的なデッサンの修業が唯一のものであるとは考えていない。それなのに、なぜ初めて絵を習おうとする人にデッサンから始めることを勧めるのか、理由は以下である。
デッサンをある程度練習すると、西洋絵画(洋画)の写実的な描き方がよく理解できるからで、それが分かると先々で絵のことを考えるときに役に立つからだ。考えるときに一つの視点を持てる。
写実的な描き方というのは、物の形を正確に写して、光が当たってできる陰影(明暗)を物に施し立体感を表して、画面の中に奥行きを出し遠近感が分かるように描く、そういう手法である。
しかしながら、デッサンを練習してみるのは、このことを理解するのが目的でマスターすることは主眼でないから、「こんな難しいことがちゃんとできるようになるのは私には無理」と結論しても全然構わないし、それでいい絵が描けないというわけではけっしてない。

ところで、日本で多少とも洋画風の絵が描き始められたのは18世紀(江戸時代中期)だと思うが、それまでは(それ以降もだが)西洋絵画とはまったく異質の日本絵画の歴史があり数々の傑作が生まれている。日本絵画においても当然に基礎というものがあって、それがしっかりできていない画家にはいい絵が描けない。そして、その基礎は、洋画のデッサンとはかなり違ったものであったことは想像にかたくない。
だから、もし今の自分が描きたいと思う絵、理想とする絵が精緻な写実絵画で、それがデューラーではなく伊藤若冲を模範とするものであるなら、一般的なデッサンの練習に励むよりも別の練習を積み重ねた方がよいであろう。
いわゆる基本のデッサンの練習を、どんな絵にも効く万能薬みたいに思い込むのは考えもので、間違いではないが単純すぎると思う。
実際に、「とにかく、デッサンがしっかり描けるようにならなくてはいけない」と独り合点している初歩の人が多いような気がするのだが・・・。

だから、「とにかくデッサンのレッスンを受けなくちゃダメ」みたいに思い込まないことで、教室で受けるレッスンは、自分にとっての理想の絵が描けるようになるための練習内容であることが最良なので、レッスンをそういう意味にとらえて、教室の先生と親しく相談しながら取り組んでいくのが上達するコツだと思う。

上に掲載したのは、伊藤若冲の作品(部分)。