コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その27


美術史家の池上忠治氏は、「最も重要で最もすぐれた現代画家三人をあげよと言われれば、何のためらいもなく私はフランス人マティス、スペイン人ピカソそしてロシア人カンディンスキーと答えるだろう」と書いている。
これら三人の画家は、それまでの西洋絵画からは考えられないような革新的な表現を創造したのだから、たしかに池上氏の指摘はとても納得できる。
ところで、マティスピカソカンディンスキーは、それまでの絵画からすると滅茶苦茶な表現の絵を描いて発表したわけだけれども、本人たちは自信があったのだろうか、作品が全然認めてもらえないという不安はなかったのだろうかと気になってしまう。マティスについては、次のようなエピソードが伝えられているのだが・・・。

上に掲載した「ピンクの玉ねぎ」(1906年)をマティスが親友のジャン・ピュイに見せた時、マティスはこの絵をコリウールの郵便配達夫が描いたものだと説明したという。
「ピンクの玉ねぎ」は当時としてはおそろしく斬新な表現であったろうことは容易に想像できる。マティスが自身の感覚を深く追及していって生まれた表現だろう。納得のいく作品であったに違いない。それでも、他者に認めてもらえるかどうかは不安で確信が持てなかったのだろうと思う。
もっともピュイは、作品を一目見るなり「君はウソをついているね、マティス。これは君自身が描いたものに違いない」と叫んだという。
ピュイが作品の質の高さをすぐさま感じ取ったことも面白いが、マティスのような偉大な画家にして自作に確信が持てないこともあるというのは、なんだかちょっと親しみを感じてしまう。

さて、趣味で絵を描くことを楽しんでいる人が技法書や好みの絵を手本にして練習していくことはとても勧められることだが、目標とすべきはその人らしい画風の絵が描けるようになることで、いつまでも手本に頼っているのはつまらないことだと思う。
自分の感覚に自信をもって最大限それを生かして絵を描いていこう、感覚を鍛えて発展させようと考えたい。そうすれば、独自の画風のいい絵が描けるようになるに違いない。
でも、自身の感覚に全幅の信頼をおくのは難しいことで、つい手本を探して頼りたくなる気持ちが起こってしまうもので、私も度々そういう自信喪失状態を経験して反省している。
それでピカソのような強靭な精神力を見習おうとはしているのだが、まだまだ不足していて無念である。
ピカソの強烈な自我が如実に表れている制作過程は、ドキュメンタリー映画の「ミステリアス・ピカソ」で堪能できる。とくに最後の作品の制作過程は凄い。ニコニコ動画で視聴可能、以下・・・

  https://www.nicovideo.jp/mylist/9082803

感覚というものは、普段何気なく自然と使っているように思われているのかも知れないが、フル稼働しているわけではないだろう。
いい絵を描くには、自身の感覚をどのようにして目いっぱい働かせるかが大事になる。次回はそのことについて触れたいと思う。