コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その20


趣味で絵を描いている人が上手くなるための秘訣は、もちろん長く続けることに違いない。
そして、言うまでもなく、絵を描くことが楽しくなかったら長く続けられない。
ルノワールのよく知られたエピソードに次のようなものがある。
ルノワールは若い頃、グレールの画塾に通って学んでいた。あるとき、先生のグレールがルノワールに向かって、「君はただ自分を楽しませるだけのために絵を描いているようだね」と皮肉を言ったのに対して、ルノワールは、「もちろんですとも。もし絵が私を楽しませてくれなかったら、私は絶対にここでこんなことなんかしていませんよ」と答えたという。
このエピソードは、趣味で絵を描く人が大切にすべき心得のよい手本になる話だと思う。「楽しく描いてルノワールになろう」という標語を教室に掲げたいくらいだ。

ところで、描くことを楽しむための工夫はいろいろあるだろうが、ひとつにはモチーフは慎重に選ぶことを挙げてもよいだろう。
興味をもって取り組めるモチーフを選ぶことが大切で、練習だからといって描く気があまり起こらないようなモチーフを描いてはいけない。我慢して描いても面白いはずがないし、いい絵にもならない。また、簡単だからという理由で選ぶのもやめた方がよい。パッと見は難しそうでも、描いてみるとそうでもないモチーフはたくさんある。たとえ少々難しくても描きたい気持ちがあると、楽しく苦労して根気よく描いていけるし、仕上がったときの達成感が何とも言えない喜びとなる。
ちょっと困ることは、教室に通っていると、モチーフはあらかじめ用意されていてそれを描くことが多くなることだ。先生は、その人によかれと思ってモチーフを用意しても、当人がそのモチーフを描きたいかどうかまでは分からない。
では、そのようなときにはどうしたらよいか。思い切って先生に相談しよう。何でもかんでも先生の提案やアドバイスに従っていれば上手くなるように思うのは間違いで、先生とは質問やら相談やら、ときには議論をしていろんな話をする方が得ることはたくさんあると思う。

さて、モチーフは興味のもてるもの、描きたい意欲が湧くものを選ぶことが大切だと書いたのだが、今の実力ではまったく手に負えないモチーフもあるのは確かで、そういうモチーフはしばらくお預けにしてみることを勧めたい。
というのも、手に負えないモチーフに意地になって取り組んで、惨憺たる結果となってとてもガックリした経験を私はもっているからで、描いてみなけりゃ分からないといえばそうなのだが、そこで意地になってまで描き続ける必要はないと言っておこう。よい経験になると前向きに考えることもできるが、そういう体験が続いてしまうと描くのが嫌になることもあると思う。
そういう可能性のあるモチーフの一例を挙げるなら、初心者の場合を考えるとやはり人物画であって、とくに裸婦はどう描こうとたいへん難しい対象であることは確かだろう。趣味で描いている人には、裸婦を描く機会はそうはないだろうけれども。
それから、実際に人物画の難しさを実感するには、まずは自画像を描いてみることを提案したい。いずれにしろ自画像というのは、とても魅力的なモチーフであると思う。

掲載したのは、私がとても感動したルノワールの作品。