コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その19


趣味で絵を描いている人にとって、「継続して同じペースで描いていくこと」はなかなか難しいことだと思う。
勤めている人は、仕事が忙しくなって絵など描いている余裕がなくなることがあるだろう。
主婦の人は、家庭の事情で時間が取れなくなってしまうことがあるだろう。
学生は、学校生活やアルバイトに時間とエネルギーを集中する必要が出てくるかもしれない。
このように、いろんな事情で、とりあえず絵を描くのをしばらく中止、あるいはペースダウンしてしまう場合がしばしばあるのではないだろうか。

「銀行員のように制作していくことが大切だ」というような意味のことを昔の画家(名前は失念)が言い残しているが、つまり、銀行員が規則正しく勤務するように毎日同じペースで描きなさいとアドバイスしているわけで、たしかに毎日継続して描くことはプロとしての第一歩だと思う。趣味で描いている人も、週に一度の、または隔週に一度の教室通いのペースを守って絵を描いていくことは、上手くなるための最低限の条件と言ってもよいくらいだと思うのだが、それを何年も続けるのはけっこう根気が必要となってくる。
しかし、それを実行できなければ、いくら素晴らしい美的センスの持ち主であっても、自分の作品が楽しみ以上のものにはなりにくいと思う。
教室に通うことがなくても、自宅で同様にペースを守って制作している場合はそれでよいわけで、そうしてほぼ独学でいい絵を描いている人もたくさんいるだろう。でも、たいていの趣味の人は、教室で描いていきながら制作ペースを保っているのではないだろうか。

さて、そんなことをいっても、どうしても教室に通う時間が取れないし、自宅で落ち着いて絵を描くこともできない。そんな状況になったのだが絵をあきらめたくない場合はどうしたらよいか、描く余裕ができるまでの間に何をすればよいか、それを以下に述べたい。
といっても、するべきことは簡単で、ひとつのことを続けてみるとよい。
つまり、モチーフは何でもよいからスケッチをしよう。
落書きみたいなものでよいから、毎日スケッチをしよう。ご飯を食べる前に目の前の焼き魚を描いてみよう。スターバックスでコーヒーを飲みながら窓外の建物を描こう。近所の公園に行ったら植わっている木々を描くのもよい。鏡に映った自分の顔を描いたりペットの犬や猫を描くのもおススメだ。もっと簡単なもの、食卓のリンゴやミカンでもいいしお気に入りのコーヒーカップもモチーフになる。
それに、スケッチブックに描かなくてもペンタブレットを使ってもよいのだ。

2、3時間ちゃんと座って描く余裕がなくても、10分、20分の落書きを軽い気持ちで描くことならできると思う。そんないい加減な遊びみたいなことをしても、何も身につかないのではないかと思うかもしれない。しかし、どんなに軽い気持で描いても、何かを見て手を動かすということは自身の中に必ず残るものがある。そういうものは蓄積されていくし、精神が絵とつながった状態を保つことができるのだ。
ついでに言うなら、今はいったん絵をやめて、いつか余裕ができたらまた本腰を入れて描くことを再開しようと考えるのが、一番まずい考えだと思う。それは、趣味で絵を描く生活をあきらめることに等しいといってよいと思う。

掲載したのは、黒田清輝のスケッチ。