コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その17


絵を習い始めようとしたときに、水彩画を選ぶ人が多いように思う。油絵か水彩画のどちらにしようかと迷う場合は、水彩画の方が易しくて親しみやすいイメージがあるのかもしれない。実際に水彩画は絵具の扱いが簡単だし、描き方も油絵に比べると易しいといえるだろう。また、水彩画は日本人の気質にしっくりなじむところがあるようにも思う。
もちろん、描き手と画材には相性があるから、なかには油絵具で描くことが性に合っている人もいるわけで、そういう人にとっては水彩画の方が難しいということになる。

さて、水彩画を楽しく描くためには基本のテクニックをマスターするとよい。基本のテクニックというのは、「ウォッシュ」や「ウェット・イン・ウェット(にじみ、ぼかし)」や「ウェット・オン・ドライ(重ね塗り)」や「グラデーション」などの技法のことで、適当な技法書を買ってきて繰り返して練習すれば、それほどの練習量を必要とせずに上手く使えるようになると思う。
ある程度絵画教室に通っているうちに、それとなくこれらのテクニックを使えるようにはなるのだが、自宅で集中的に練習する方が効率的だろう。「ウォッシュ」や「ウェット・イン・ウェット」などが上手にできるようになると、ストレスなく水彩画が描けるようになって気分がよいと思う。

ところで、テクニックはたくさんマスターすればするほどいい絵を描くことのプラスになるかというと、そうともいえないというのが私の意見で、描画テクニックを磨くことに一生懸命になり過ぎてしまうと肝心なものを学び損ねることになりかねない。水彩画にしろ油絵にしろ、画材を上手に使いこなすためのテクニックは必要であることに間違いないのだが、例えば風景画で山や川や木などをリアルに見せるためのテクニックなどは、趣味でいい絵が描けるようになりたいと考えている人にとっては、あってもいいかな程度の技術ではないだろうか。

1990年代に「ボブの絵画教室」というテレビ番組が放映されていて、あっという間に油彩のリアルな風景画が描き上げられるのでびっくりして恐れ入ったことがある。雪山はこう描くとよいとか針葉樹の森はこうすると感じが出るとか具体的な描き方を教えてくれて、それらのテクニックが上手に使えるように手本を示してくれる番組だった。
そのような類の描画テクニックはたいへん重宝で魅力的なものであるけれども、そういうテクニックを身につけることに精進することが、いい絵を描くための近道になるわけではないと思う。
絵を描く者にとっては、テクニックにどの程度の重きを置くかは悩ましい問題で、テクニックが先走った絵は嫌味で嘘くさい感じがするし、テクニックに背を向けたような絵はぎこちない貧相な絵になりやすい。

テクニックについては、次回にもうすこし書いてみたいと思う。
掲載したのは、国宝の「桃鳩図(部分)」。鮮やかなテクニックが光るが、それだけではない傑作。