コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その15


絵が上手くなるためには制作するペースが大切で、週に1回程度は教室に通って描くことを続けると制作のリズムができてよいと思う。それ以下のスローペースになってしまうと、たいていの場合、「描くことの楽しみ」は味わえても「上達する喜び」を実感するのはむずかしいだろう。
さて、それでは一定のペースで描き続け、美術展などに足しげく出掛けて絵心を豊かに成長させる以外に、さらに何をすれば上達することを後押ししてくれるだろうか。私が提案したいのは、美術関連の書籍を読むことだ。

大きな書店の美術書コーナーに行くと、種々多様な美術に関する本が所狭しと並んでいる。そこから適当な本を選んでどんどん読めばよいのだけれど、実際に適当なものを選ぶのは結構難しいと思う。
そこで参考までに、どのような美術書がおすすめなのか私の意見を述べてみたい。
まず、画家の伝記をおすすめしたい。好きな画家が身近に感じられるようになるし、制作に取り組む姿勢が知れてとても参考になると思う。
次に、画家本人が書き残した自伝やエッセイや手紙などを挙げたい。例えば、よく知られているように、膨大なゴッホの手紙は画家の内面を理解するのにはまたとない貴重な資料であり、また文学作品としても感動する読み物で、人にとっての芸術の意味を考えさせられる。
画家たちが書いたエッセイは、それぞれの画家の芸術観が表れていてたいへん興味深いし、制作の秘密を垣間見ることができるかも知れない。

難しそうな美術評論の本は避けるのが無難だ。殊に美術評論家や大学の教授など研究者の著作の中には、難解なだけで得るところがあまりないものが少なからずあるように思う。事実が述べられているとは思えず、的外れな結論に達しているのではないかと疑問を覚えることもある。
でも、これは考えてみれば当然で、研究者は美術を研究している側であって、実際に制作している側ではないのだから何らかのズレが生じることもあるのは仕方ないし、それにまた評論も創作なのだから、必ずしも真実が書かれているとは限らない。
もちろん、研究者の著した美術評論にもその慧眼に驚かされ、たいへんに教えられる内容のものがある。私にとっては、矢代幸雄氏や高階秀爾氏の著作がそうだった。

エッセイ風の美術評論は、読み物として面白いものが多くておすすめだろう。洲之内徹氏の「気まぐれ美術館」のシリーズは私のお気に入りだ。洲之内徹氏は画廊のオーナーだった人で、世間にあまり知られていない画家たちを紹介している。
中野京子氏の「怖い絵」も印象に残った本だ。エッセイ風の美術評論はたくさんあるけれど、読む楽しさと美術の知識を得られるものが多いように思う。

掲載したのは、スペインの画家アントニオ・ロペスが、1974年から1981年までの7年間をかけて制作した「グラン・ピア」と題された作品。
ロペスは、朝6時30分の光を捉えるべく、毎朝現場に通い20〜30分の制作を続けたという。彼は写真を使わずに現場で描く主義で、どの作品も制作に長期間を要するとのこと。
こういう制作の詳細な事情や、制作にかかわる画家の言葉などは展覧会のカタログに詳しく書かれていることがある。展覧会を見に行ったら、会場では見ることに集中して、帰宅後にカタログをじっくり読むことをお勧めしたい。