コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その13


絵が上手くなりたいと思ったら、ただ一生懸命にたくさん描けばよいというものではないだろう。描けば描くほど技術は向上するだろうが、肝心の絵心が成長するかどうかは分からないからだ。
ボナールの1934年1月22日の覚え書きに、「いけないのは自然の一部を切り取ってコピーすること」と記されている。技術だけが向上して絵心が成長せずに貧弱のままだと、風景画を描いても「いけないこと」をしてしまうかもしれない。
それでは、どうやって絵心を養っていくのがよいだろうか。やはり美術展に足しげく出掛けて、数多くの古今東西の美術品に直に接することが一番だと思われる。古今東西というところが大事で、自分が興味のある展覧会を見るだけでは駄目で、健全な絵心を育てていくには偏食は禁物だろう。

とにかく、何でもかんでも手当たり次第に見てみようと日頃から思っていたなら、あるとき心に響いてくる思わぬ作品との出会いがあって、それが絵心にはとても大切な栄養となる。
私にとって、そういう意味で忘れられない作品の一つが京都国立博物館にある俵屋宗達の「蓮池水禽図」で、モネの睡蓮をモチーフとした作品とクロスオーバーして不思議な感じを覚えたことがある。別に何かはっきりとした絵画論を考えたわけではなく、自分だけのちょっとした感覚の問題なのだが、よい体験をした気がしたものだ。
美術の世界は広大無辺だから、古今東西の美術品をすべて見尽くすことはできない相談だが、見ることに執着してできるだけ展覧会に行ったり美術館や博物館の常設展示を見たりすると、かなり幅広く美術の世界を渉猟できるから絵心も豊かに育つというものだろう。

いろいろな展覧会に行って会場にある解説文を読んだりすると、なるほどと思われるような知識をふんだんに得ることができて便利なのだが参考程度と考えて、あくまでも自分の感覚で絵を見る、そういう眼が絵心を育てていくと思いたい。絵を描く人になるわけで美術評論家になるわけではないのだから、知識で絵が分かった気になっても仕方ない。
掲載したのは、私が学生時代に教わった桜井寛先生の「めだま焼きのある静物」。めだま焼きがモチーフになるとは!いい絵だなあ。