コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その10


前回述べたように、プロの画家を志している人と趣味で絵を描いていこうと思っている人とでは、基礎として習得すべきことが少々異なるので、両者を区別して考える方がよいだろう。
そうではあるけれども、プロの画家が描いた絵が、趣味で描いている人のものより優れているとは決まっていないので、そういう意味では両者を区別しても仕方ない。同時代の中で、世間に名の知られた画家よりも素晴らしい作品を描き残している素人画家は結構いるだろう、そういう事例には事欠かないわけだから。

掲載したのは、イギリス、コーンウォールの港町、セント・アイヴスで船具商を営んでいて、若い頃には船乗りでもあったアルフレッド・ウォリス(1855−1942)の作品だ。
彼は70歳になってから、独学で絵をを描き始めた。手近にある板切れやボール紙、紙切れに片っ端から海や帆船などの絵を描いていったようだ。
美術学校などで教わるような西洋絵画の基礎はまったく知らなかったか、多少知っていても習得していなかったろうと思われる、そういう絵だ。
それでも、なんとも言えない魅力があって素晴らしい絵になっている。こういう絵は、アカデミックな教育を受けた職業画家にはなかなか描けないだろう。なぜなら、彼らには、苦労しつつ長年かかって身につけてきた技術や、絵画の基本だと教わってきた知識や考え方がしっかりと身についていて、そこから逸脱した自由な表現をする邪魔をしてしまう。

ウォリスの絵は、本心から描きたいことを楽しみながら好き勝手に自由気ままに表現してこそ描ける類のものであり、絵の本来の在り様は、こういうものではなかったのかなと私は思っている。