コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その7


前回、「自分の絵の方向性が見えてきて、自分が本当に描きたい絵はどのようなものであるのか分かってくる」と書いた。このことについて、さらに述べてみたい。
まず「絵の方向性」とは何のことかというと、ここでは、たんに「何をどう描くのか」というその人なりの表現の意味で使っているに過ぎなくて、むずかしい絵画理論の話ではない。例えば、人物を描くときに、ルネサンスの画家たちみたいに迫真的な写実で描くのか、ゴッホアンリ・ルソーのように自分なりの見方で人物をとらえて描くのか、このような表現の仕方のことを「絵の方向性」といっていると思ってほしい。

さて、自分はどのような表現の仕方を目指そうかなと考えるとき、やはり自分が好きな画家の描き方を真似したくなって、同じように描けば似たような絵が出来上がるのではと考えることもあるのだが、でもこれは、たいてい思うような結果にならない。自分の好きな絵と自分に描ける(将来的にも)絵は、ほとんど一致しないことが多い。ラファエロのように描こうと思っても技術的にほぼ不可能だし、ゴッホのような絵が描きたいと思っても才能が違い過ぎるので、いつまでたっても模倣にもならない程度の作品しかできないだろう。
だから、結局はだんだんと自分なりの表現の仕方を見つけるしかない。もっとも、巨匠たちの絵を真似することがまったくの無駄になるわけではなく、そこから有益なヒントを得ることも多いから、真似も勉強だと思ってするのはよい練習になると思う。

では、どうやって進むべき自分なりの絵の方向性を見つければよいかというと、やはり自分の絵の長所を知ることが第一だ。どんな人の絵にも必ず魅力がある。自分の絵のいいところを素直に認めて、それをますます伸ばして生かしていくためには、どのような表現をしていけばよいのかを考えることが最も大切だと思う。
例えば、色が好きで色彩の美しい絵の描ける人なら、印象派のような絵を追求してみるのはどうだろうか。べつに印象派の理論を知らなくてもよい。自分なりの印象派っぽい絵で構わない。色彩で自分を表現できるようになったら素晴らしいと思う。
また、形はぐちゃぐちゃになるがとてもユニークな雰囲気の絵が描ける人なら、その雰囲気を大事にして、ものを写実的に正確に描くことにとらわれず、もっと雰囲気が面白くなるように形と色を工夫してみよう。絵の中の世界が写実的でなくても、とても魅力のある絵の世界になれば、それはたいへん素晴らしいことだと思う。

ところで、自分の絵の長所を見つけることが大切と述べたが、自分の絵の長所が分からない場合はどうすればよいのか、次回はそれについて書いてみたい。
上に掲載したのは、まったく独自の表現法で素晴らしいシンプルな絵を描いたジョージア・オキーフの「春」と題された作品。