コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その4


水彩画や油絵などを習い始めようと思っている人に、「最初にデッサンの練習から始めた方がよいですか」とたびたび質問される。私は、「もちろんデッサンの練習は大切ですが、水彩画(あるいは油絵)を描きたいと思われているなら、それから始めてもまったく問題ないです」と答えることにしている。
最初にデッサンを練習しなくても、まったく問題ない・・・このことについて述べてみたい。

上に掲載したのは、私の好きな画家、アンリ・ファンタン=ラトゥールのバラの絵。
例えば、こんなきれいな花の絵が描けたらいいなあと思って絵を習い始めるとする。本気でこのような絵を描けるようになりたい場合、デッサンの修練は不可欠であり、かなりの描写力を養わなければならないだろう。しかし、考えてみよう。週に1回のペースで絵画教室に通うとして、その時間(2〜3時間)にいくら集中してデッサンを練習しても上達はかなりゆっくりになり、ラトゥールの絵のようなリアルな絵が描けるほどのデッサン力を身につけるには、たいていの人はかなりの長い年月がかかってしまう。
もちろん、週に1度の教室通いの他に、日課として2〜3時間位のデッサンの練習をするのなら話は違ってくる。でも、よほど熱心で時間に余裕のある人でない限り、それを1年とか2年とか毎日のように続けるのは難しいのではないだろうか。

それならば、これから趣味で絵を描くことを楽しもうと考えている人は、「デッサンは基礎だから、まずはデッサンの練習から始めなければいけない」と考えないようにしよう。
そして、掲載したラトゥールの絵のような、リアルな描き方で美しさを表現することだけを目標としないようにしよう。
絵を描くときに実物と似せようとする気持ちは大事だが、写真みたいにリアルな美しさを描かなくても実物の美しさに迫ることができるのは、前回のルソーの絵が証明しているのだから。

それでも、「デッサンは基礎なのだから、基礎を養わなければ伸びないのではないか。デッサンがちゃんと描けるように修行していくのが絵画の王道だ」という意見もあるだろう。
その意見には、まったくの正論なので私は反論しない。
ただし、趣味で楽しく絵を描きたい人に、まとも過ぎる正論にとらわれなくてもよいのだ、もっと自由に絵を描こうと言いたい。絵を描くことほど自由なことはないのだから。

次回は、水彩画や油絵を習い始めてしばらく描いているのだが、やはりデッサンを練習する必要を感じてきた場合に、それでもデッサンを練習しなくてよいのかどうかについて述べたいと思う。